高市首相が発言を撤回できない理由
こうしたなか、日本国際貿易促進協会の会長として北京を訪れた岩屋毅前外相は、2026年9月28日に王毅外相、29日に何立峰副首相と相次いで会談した。
高市首相の答弁で関係が悪化して以降、中国指導部の高官が日本の国会議員と会談したのはこれが初めてとされる。
会談で中国側は、経済交流の重要性に理解を示しつつも、「日本の指導者の台湾に関する誤った言動」を速やかに是正するよう強く求めた。
中国側が知中派の前外相を窓口に選び、高市首相の発言をめぐって改めて圧力をかけたということになるだろう。
ただし、高市首相は自らの発言を撤回していない。
考えられる理由の一つは、一度掲げた「存立危機事態」の認識を撤回すれば、日米が一体となって台湾海峡の平和を維持し、中国による現状変更を抑止するという枠組みを、日本側から崩すことになるという点だ。
さらに、台湾や周辺国に「圧力に屈した」という誤ったシグナルを送ることにもなりかねない。
また、保守派を中心とする支持層の信任を背景に発足した政権にとって、中国の反発を受けて前言を取り消すことは、政権の基盤を揺るがすことになりかねない。
高市首相は、先の衆院選でも、毅然とした対中姿勢を自らの正当性の中核に据えてきた。
しかし皮肉なことに、その「逃げられない理由」の当事者であるはずのトランプ政権が、国益と取引を優先して中国との休戦を成立させてしまったのである。
ここから仮に首相が妥協姿勢を見せて発言を修正したとしても、中国が規制や渡航自粛を即座に解除する保証はない。ノーベル平和賞をめぐって中国からサーモンの事実上の輸入制限を受けたノルウェーは、関係修復に約6年を要し、その間に市場シェアを失った。
引けば外交的威信と安全保障の論理を失い、突っ張れば経済的に消耗する――まさに袋小路に陥っているのだ。