タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」 槇原敬之、「Design&Reason」
デビュー30年目の原点回帰

   平成を代表する男性シンガーソングライターと言えば、真っ先に名前があがるのが、槇原敬之だろう。

   当時のカセットテープのメーカーが主催していた「AXIA MUSIC AUDITION89」でグランプリを獲得、1990年10月、シングル「NG」、アルバム「君が笑うとき君の胸が痛まないように」でデビューした。以来、29年。今年が30年目を迎える。アルバムの総売り上げ枚数でも屈指の存在となった。2004年には売上枚数1000万枚突破の最速記録を残している。

   ただ、2019年2月13日に発売になった彼の22枚目のアルバム「Design&Reason」を聞いて、これだけのキャリアがありながら、こういうアルバムを作れるということに彼の存在を再認識させられてしまった。

「Design&Reason」(SMM itaku、アマゾンHPより)
「Design&Reason」(SMM itaku、アマゾンHPより)

ライフソングとラブソング

   槇原敬之がデビューした時、何よりも新鮮だったのはラブソングのみずみずしいリアリティーだった。誰にも思い当たる恋愛の機微。常套手段のような言い回しやフレーズは使わない。身近な題材や小道具を織り込んださりげなく日常的な情景や心理描写の巧みさは短編小説やドラマのワンシーンのよう。デビューアルバムから初期の3枚の日本語の長いタイトルというスタイルも画期的だった。そして、ピアノと打ち込みというスタイルや微妙な心の揺れをすくい取ったようなメロディーの切なさは従来の男性シンガーソングライターでは際立っていた。

   ただ、彼のキャリアで語らなければいけないのは、そうした"ラブソング・マスター"に留まらなかったことだろう。21歳でデビューした90年代と30代になって迎えた2000年代とは明らかに作風が変わった。その象徴的な曲が2003年にSMAPが歌った「世界に一つだけの花」であることは言うまでもない。人は誰もがかけがえのない存在であり、その人にはその人にしか咲かせない花がある。当時、彼が言っていたのは「人生に意味のあるポップス」だった。

   恋愛体験の共感ということだけでなく、それを更に発展させ深化させたような聞き手の人生に寄り添って支えになる歌。彼はそれを「ライフソング」と呼んだ。ラブソングとライフソング。2010年のデビュー20周年で発売されたベストアルバムは二枚。「Noriyuki Makihara  20th Anniversary Best LIFE」と「Best LOVE」に分けられていた。

   そういう分け方で言えば、新作アルバム「Design&Reason」はその両方を合わせ持っていると言えそうだ。

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