タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」 aiko、シングルコレクション56曲
女性の心理を描きつづけて

    ベストアルバムやシングルコレクションという企画性の高い作品には二種類の作り方がある。一つは、発売順や年代順に並んでいるもの。もう一つは、新録音などの、何らかの意図に沿って手が加えられたものだ。

「aikoの詩。」(ポニーキャニオン、アマゾンサイトより)
「aikoの詩。」(ポニーキャニオン、アマゾンサイトより)

作品の年代で新旧が感じられない

    たとえば、DISC1の一曲目は99年の三枚目のシングル「花火」だ。初めてシングルチャートの10位以内にランクされた曲。彼女の中の「始まりの曲」という意味では、その次のシングルだった4枚目の代表曲「カブトムシ」という意味でも強いのかもしれないと思わせる。「夏の星座にぶらさがって流した涙で花火を消す」という星の王子様のような失恋ソングは、歌謡曲も含めて題材になることの多い「花火ソング」でも彼女ならではの愛らしい曲だろう。しかもライブの一曲目のような躍動的なリズムもある。なぜこれにしたかという意図が明確に感じられる始まりとなっている。

    改めて興味深いデータを紹介しようと思う。彼女のシングルは、ここに収められた38枚42曲。アルバムは99年の一枚目「小さな丸い好日」から去年の「湿った夏の始まり」まで13枚。チャートを見ると、アルバム13枚中、一位を記録したものが9枚、二位が2枚、三位が1枚。アルバムチャート一位率で言うと何と7割。トップ3に入った率は驚異の9割以上だ。それに対してシングル38枚で一位になったのは99年の両A面「milk/嘆きのキス」と2010年の「戻れない明日」という二枚だけだ。トップ3に入ったものが22枚。率で言うと6割弱。つまり、典型的なアルバムアーティストということになるのだろう。代表曲や人気曲の中にはアルバム収録曲も多い。彼女のキャリアの中で過去に初だった2011年のベストセレクションアルバム「まとめⅠ」「まとめⅡ」には、シングル、アルバム両方からの計32曲が選ばれていた。

    そういう意味ではシングル曲だけで彼女の歌を味わうという機会はこれが初めてということになる。

    何しろ、全てがラブソング。そのほぼ全てが失恋ソングだったことに改めて気づかされるだろう。

    ラブソングの達人と言われるシンガーソングライターと言えば、万人が松任谷由実と中島みゆきをあげるに違いない。それぞれの情景描写やストーリーテリングの巧みさには他を寄せ付けないものもある。でも、同じラブソングでも主人公の設定や流れているテーマが時代によって少しずつ変わってくる。男女の恋愛だけではない曲もある。

    aikoのシングル42曲は、そうではない。大半が女性の側の心理描写。人を好きになることのディテール。どの歌もともかくいじらしい。女性心理の見えや強がり。その反面の逡巡や落胆、そして自責。中には、男性がひるんでしまいそうな直接的な描写もある。それら全てが抱きしめたくなるような愛らしさにつながっている。年代で新旧が感じられない。いつ発売になったものかが気にならない。全56曲が発売された時期を超えてひとつの物語のように聞こえてくる統一性を持っている。それは彼女だけではないだろうか。

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