sajou no hanaとして生み出す新たなサウンド。作詞・作曲家 渡辺翔は「更に向こうへ」と進む

   アニソン界きってのボーカリストLiSAから、アイドルグループけやき坂46(現・日向坂46)まで幅広く楽曲を提供し、それぞれのファンに強い印象を与え、作詞・作曲家として高い評価を得ている渡辺翔。今回はその渡辺に、現在に至るまでの道のり、楽曲制作の舞台裏、自ら立ち上げたバンドsajou no hanaとしての新たな挑戦、そしてLiSAとSONY Just earのコラボレーションによるテーラーメイドイヤホン「XJE-MH/L1SA」を使用した印象を聞いてみた。

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プロデューサーを目指したはずが作曲家の道に

   ──作曲を始めたのはいつごろからですか。

   19歳です。遅いですよね(笑)。自分でもそんな出遅れてのスタートでアーティストになれるなんて思いませんでした。高校を卒業するときには、アーティストを世に紹介していく立場で音楽に携わっていこうと考えて、音楽専門学校のプロデュース学科に進学したんです。

   ──音楽好きらしい進路選択ですが、実際にはプロデューサーにはなっていませんよね?

 

   入学してみたらその学科は、アーティストのために自ら作曲することも含めた、小室哲哉さんタイプの総合的なプロデュース学科だったんです。それで僕も授業がありますから否応なく作曲を始めることになりました。でもやっていくうちに面白くなって作曲家を目指すようになりました。

作曲家としてのデモアレンジも作り込む

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   ──卒業後に作曲家としてデビュー。キャリアの転機となった曲は?

    ClariSさんに作詞作曲した『コネクト』が大きいですね。『コネクト』を評価してくれた方々からのお声がけでの仕事、そこから更につながっての仕事という広がりは、もしかしたらこれまでの僕の仕事の半分くらいを占めるかもしれません。

   ──編曲は他の方が担当するケースが多いですよね。作曲のみ担当の場合、デモ音源のアレンジはどの程度作り込みますか?

 

   自分にできる範囲でしっかり作り込んでます。使ってほしい楽器や曲のフックになり得るフレーズもその時点で入れていますね。その上で、僕のアレンジの方向性やパーツをそのまま生かしてもらうのも大胆に変えるのも、その作品やプロジェクトとしての判断にお任せしています。

   ──例えばLiSAさんの『だってアタシのヒーロー。』や井口裕香さんの『リトルチャームファング』には、冒頭から印象的なリフ(短い反復するフレーズ)があります。

 

   僕のアレンジを生かしていただいたパターンですね。僕が用意したフレーズを編曲家の方が発展させてくれています。

sajou no hanaで目指す音

   ──昨年からはバンドsajou no hanaとしての活動も開始されました。

   他の方に曲を提供する形ではやりにくい、もっと踏み込んだ面白い音楽もやっていきたいと、数年前から考えていたんです。アニメ『ニセコイ』でキャラクターソングを丸ごと任せていただいて、1つのプロジェクトのすべてを自分で作り上げる楽しさを知ったのがきっかけでした。

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   ──作曲家が主導でプロジェクトを考える場合、楽曲ごとにボーカリストを迎える形もありますよね。

   ですね。でも自分としては「センターポジションのボーカルはいてほしい」というイメージがあったんです。

   ──3人構成でギタリストではなくベーシストが入っているのは珍しいパターンとも思いました。

   ベーシストを選んだわけではなく、キタニタツヤと一緒にやりたかったんです。彼は作曲家としての力もありますがバンド経験もあって、職業作家っぽくない。それに僕より後の世代ならではの感覚もある。彼にアレンジを任せたら自分の曲もアップデートされるだろう、彼がやる音楽を間近で見ることで自分も刺激を受けられるだろう、という期待がありました。そのキタニ君がベーシストだったからベーシストのいる編成になったというだけなんです。

   ──ボーカルのsanaさんはどういったつながりから?

   以前にうちの事務所と『リスアニ!』(アニメソングの専門誌)さんが合同で開催したオーディションに参加していて、僕もそのとき審査員だったので存在は知っていたのですが、その数年後に彼女側で曲を探しているタイミングがあって、僕にも話が来たんです。そこで再び彼女の歌を聴くとオーディションの時よりすごく成長していて、改めて強い印象を受けましたね。

   ──それでご自身のバンドを始めようと考えた時に彼女の存在を思い出されたと。

   ただ、彼女をボーカルに迎えたらハードルは高くなるなとも感じました。当時はパッと突き抜けるストレートな声質のボーカリストが人気を集めていたんですけど、彼女はそうではなく、深く響く声が魅力ですから。でもだからこそ、その声をこれからの時代にフィットさせることができたら面白いなと。僕自身が楽しめる僕が作りたい曲。それでいてsanaちゃんの歌声に合う曲。そこにキタニ君の才能も合わさって、すべてが最高の形で重なってできる曲というのが、sajou no hanaで目指している音です。

「とある」最新作のエンディングを飾る新曲『Parole』

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   ──ニューシングル『Parole』は、アニメ『とある科学の一方通行』のED(エンディング)テーマです。

    『Parole』は"執行猶予""仮釈放"という意味です。主人公の「一方通行(アクセラレータ)」は正統派のヒーローではなく、過去に色々あってそれを背負っているキャラクターです。そこを掘り下げる詞と曲、それを象徴するタイトルとしてその言葉を選びました。

   ──渡辺さんは『とある科学の超電磁砲S』EDテーマで井口裕香さんが歌う『Grow Slowly』も作詞作曲していらっしゃいます。それを含めて「とある」シリーズのこれまでの楽曲は意識しましたか?

   してますね。例えば、僕は「とある」シリーズの楽曲にはシンセサウンドのイメージがあるんです。だからそういう要素は入れたいなとか。そういったサウンド的なつながりも持たせつつ、「一方通行」のキャラクターや物語のダークさを歌詞とサウンドの両面で打ち出しています。

   ──こちらもまさに編曲をキタニさんに任せる形ですが、キタニさんによるアレンジのポイント、そして渡辺さんのデモから変わっていない部分の例としては?

   彼のアレンジでいちばん印象的だったのはイントロでのエフェクティブなボーカルの使い方ですね。スライサーで刻んだり何らかの加工をしたボーカルを使ったアレンジは、国内外で何年か前から流れが来ています。それをすっと入れてきたことにさすがと思わされました。僕のアレンジが残されている部分だと、同じくイントロのシンセのフレーズがそうですね。楽曲提供でもイントロのフレーズはそのまま使ってもらえることが多いです。

イヤホンが耳にフィットしてくれない問題

   ──曲作りの際には、どんなモニタースピーカーやヘッドホンをお使いですか?

   Genelecのパワードスピーカー「1029A」がメインです。自分は詳しくないので、周りに「モニターとしてのフラットさに加えて気分を上げてくれる音でもあってほしい」という要望を伝えておすすめしてもらいました。

   ──パワードモニターの記念碑的な名スピーカーですね。

   あとは普通のラジカセも使っています。どちらにせよ、楽曲制作中はほとんどの場合スピーカーで音を聴いていますね。ヘッドホンを使うのは、曲作り自体とは少し違う細かな作業、ピッチ補正をするときなど、ひとつの音に集中したいときくらいです。そのヘッドホンは実家の弟の部屋から勝手に持ってきたものをずっと使ってます(笑)。

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   ──制作システムのほかでは、どんなアイテムを使ってどんな場所で音楽を聴いていますか?

   やっぱりスマホですね。でも電車とかで音楽を聴くことはあまりなくて、車での移動中にスマホを車のオーディオにBluetoothでつないでということが多いかな。そういえば僕、耳栓型のイヤホンだと片方の耳だけやたら外れやすいんです。装着も音も片方だけカスカスしちゃって。

   ──左右の耳で形や大きさが違う方って実は意外といらっしゃるんですよ。

   僕はそれでイヤホンで音楽を聴くことがあまりなくなってしまったのかも......。

Just earは定位や余白まで再現してくれる

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   ──SONY のテーラーメイドイヤホンJust earはご存じですか?その人の耳型にぴったりフィットするように耳型を採取してイヤホンを作り、加えて音質も好みに合わせて調整してくれます。ここにLiSAさんが調整したモデル「XJE-MH/L1SA」があります。この音を決める際に、渡辺さん作曲の『だってアタシのヒーロー。』も参考にした曲のひとつとして、よく聴き込んでいたそうです。

   (ご自身が手がけた楽曲を試聴すると)なるほど!これまでのイヤホンにはなかった感じですね!どの音がどこに配置されているといった定位の表現が抜群にいい。CYNHNの『アンフィグラフィティ』は空間にスペースを残した音作りにしているんですけど、その余白もちゃんとわかります。それに音量を上げても耳が痛くならないし、逆に下げても音のバランスが何も崩れない。耳にぴったり合うイヤホンで聴くとこんなレベルになるんだって実感できました。

   ──これならイヤホンも渡辺さんの音楽環境の選択肢に入ってきますか?

   はい!音の粒立ちも印象的ですね。自分の作った曲に編曲家さんやプレイヤーさん、歌い手さん、エンジニアさんがこんなに手をかけて完成させてくれたんだという、その細部までが届きます。それにこれまで試したイヤホンは耳が痛くなることも多かったんですけどこれは痛くならない!

   ──でもこの試聴機はまだ、普通の耳栓型イヤホンと同じく先端のシリコンイヤーピースでフィットさせている状態なんです。渡辺さんの耳型に合わせて作った本当のJust earなら音も装着感もさらにフィットしますよ。

   音は、僕がどういう曲をどういう音で聴きたいのか調整してもらえるんですよね?

   ──音質コンサルタントの方と一緒に同じ曲を聴きながら、「もっと空間の広がりや見晴らしをよくしてほしい」のような要望を伝えると、イメージにあった音を再現してくれます。

 

   だったら僕は、ずっと好きな曲を改めてもっといい音で聴くためのチューニングにしたいですね。仕事柄、常に新しい音楽を探し出して、そこから何かを吸収するために聴いている時間が多いんです。昔からずっと好きな曲はもう好きが確定しているので、それを繰り返し聴くよりも新しい音楽を探すことに時間を費やしてしまうほうが多くて......でもこんないい音で聴けるなら、ずっと本当に好きな曲を最高の音で浴びまくってみたいです。




【プロフィール】
渡辺 翔(わたなべ・しょう)
作詞・作曲家。アーティストを世に送り出すプロデューサーを志望し専門学校へと進むが、そこで作曲の面白さに目覚め、作詞・作曲家の道へ。卒業後、様々なアーティスト、様々なフィールドへの楽曲提供でジャンルレスに活躍。「世界観に寄り添う歌詞」「親しみやすくキャッチーでいて新しいオンリーワンの曲」を信条としたその楽曲で高い評価を受けている。2018年からはキタニタツヤ、sanaとのバンドsajou no hanaとしても活動中。

Twitter 渡辺翔 sho watanabe

sajou no hana Official Website  https://whv-amusic.com/sajounohana/


■筆者:高橋敦(たかはし・あつし)
さいたま市生まれの文章請負業者。ポータブル&パーソナルオーディオ、家電、ギター、音楽、アニメ&声優などの分野にてレビューやインタビュー等を執筆。

 

Twitter:https://twitter.com/ats5F2A/


■撮影:葛西亜理沙(かさい・ありさ)
横浜生まれ。青山学院女子短期大学英文科、サンフランシスコ州立大学芸術学部写真学科卒業。写真家・坂田栄一郎に師事。その後、独立。東京を拠点として広告や雑誌、カタログ、WEBなどを中心に写真や動画の撮影している。 また個人の作品も制作し国内外で発表している。 第63回朝日広告賞入賞。第16回上野彦馬賞「九州産業大学賞」受賞。
URL: https://www.arisakasai.com/  instagram: arisakasai_photo

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