2024年 3月 29日 (金)

繰り返す「否定」で相手を支配する「モラルハラスメント」の恐怖

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    職場の嫌がらせのうち、性的な要素を持つ「セクシャル・ハラスメント」や、職権を濫用して行う「パワー・ハラスメント」の問題点は、社会的に認知されつつある。しかし、その概念では捉えきれない「モラル・ハラスメント」が最近増えているという。明らかな暴力や暴言とは言えない、分かりにくく陰湿な攻撃である。

些細なきっかけで始まった「執拗な攻撃」

   K子さんは、事務職のチーフとして新しい職場に赴任した。ある日、ベテラン事務員のA美さんと、ちょっとした意見の対立から言い合いになった。その場は収まったものの、翌週からA美さんの攻撃が始まった。

   K子さんの提案に対して、A美さんは「違います」「それじゃダメです」と、強い調子でことごとく否定するようになった。しかし実際には、提案はひそかに上司に取り入れられ、A美さんの手柄になっているのだ。

   またA美さんは「チーフは何でこんなことしたんですか!」と非難したり、K子さんの説明に顔をしかめて首を傾げたり、大きなため息をついたりするようになった。視線も合わせず、K子さん以外の同僚を連れてランチに出かけた。そんなことが毎日続くうちに、K子さんは出勤前に憂鬱になり、吐き気を催すようになった。

   さらにA美さんは、社内のあちこちで噂を立てた。「K子さんは仕事ができない」「全体がぜんぜん見えていない」「チーフらしいことを何もしていない」などと吹聴。いつしかK子さんから笑顔が消え、以前では考えられなかったケアレスミスを連発するようになった。本当に仕事ができなくなったK子さんは、退職を余儀なくされてしまった・・・。

繰り返す「否定」に支配されてしまう

「モラハラ」行為を解説したイルゴイエンヌの著書
「モラハラ」行為を解説したイルゴイエンヌの著書

   一日の多くの時間を過ごす職場では、小さなストレスであっても、それを繰り返し頻繁に受けることで大きなダメージになることがある。このような行為について、フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌは、著書の中で「モラル・ハラスメント」と呼び、

「ことばや態度で繰り返し相手を攻撃し、人格の尊厳を傷つける精神的暴力のこと」(『モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない』紀伊国屋書店)

と定義している。「見えない暴力」を「モラハラ」と名付けることで、セクハラ、パワハラといった言葉で説明できない微妙な精神的な嫌がらせの存在と、被害の実態を浮かび上がらせたわけだ。

   イルゴイエンヌによれば、モラハラの加害者は「自己愛的な変質者」に多く見られるという。賞賛を求め、自分が優れた人間だと感じたいがために、他人に対する評価を貶める。自分の優越感を支えるために、絶えず身近な弱い人を否定しつづけ、組織の中にスケープゴートを作りたがる。平気で他人を利用し、他人が苦しんでいても同情を感じない。

   その結果、何をやっても否定的に扱われる状況に包囲された被害者は、次第に自分の感覚が信じられなくなってしまう。そして「否定」に支配されてしまうのだ。まるでパブロフの犬のように、「あの人」の声を聞いたりメールを受信するだけで、身体が硬直したり脂汗が出たり、理由のない罪悪感に襲われたりする。

   モラハラは静かにジメジメと行われるので、周囲に気づかれにくく、他人に相談しても「そんな些細なこと」と言われ、果ては「自分が甘いんじゃないの」などと、さらに否定されてしまう。そして被害者は抑うつ状態に陥り、その結果、退職や自殺に追い込まれることもある。

「モラハラ」への対処法はあるのか?

   そんな周りに理解してもらえない陰湿な嫌がらせのターゲットとなったとき、私たちはどう対処すればよいのか。ウェブサイト「職場のモラル・ハラスメント対策室」を運営する人事コンサルタントの石井氏は、ポイントはストレスからの「回復力」であると指摘する。

   確かに悪意のある行為は論外だが、"相性の悪さ"は人間集団には付き物だ。とは言え、誰もがどんなストレスにも耐えられる「強い心」を持っているわけではない。であれば重要なのは、モラハラで受けたストレスの悪影響から早期に回復し、本来なすべきことに集中することだ。

   出発点は「いま起こっていることはモラハラ」「おかしいのは加害者」という認識を持ち、「職場の問題は自分のせい」というマイナス思考を脱却すること。「否定」の支配から抜け出せれば、嫌がらせを受け流して仕事を続けたり、別の職場を探したりすることができる。石井氏は相談者に対し、呼吸法などによってネガティブな感情の焦点をポジティブに移すメンタル指導も行っている。

   また、石井氏は「加害者へのケアが必要な場合もある」と指摘する。人は蓄積された強いストレスを解消するために、自己愛的な傾向を強めて攻撃性を高める。会社は、加害者が抱えるストレスを緩和し、その攻撃性をも解消させなければならない。

   モラハラが起きれば、職場の雰囲気は悪くなり生産性は落ちる。会社や管理職は、一方的に圧力を掛けるのではなく、業務分担や業績評価制度を上手に設計して、職場のストレスを適度にコントロールすることが求められるだろう。

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