2024年 4月 19日 (金)

社員が「失踪」 行方不明になってしまいました

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   こんな会社は嫌だ。もう逃げ出してしまいたい!――そんな「失踪願望」を抱いたことのある人もいるでしょう。実際に社員が失踪してしまった場合、会社はどう対応すればよいのでしょうか。ある会社の担当者は「この1週間、社員の失踪対応に追われて、ほとんど眠れていない」とため息をついています。

「自殺の名所」で発見。社員の今後の扱いに悩む

――不動産業の人事担当です。1週間前、営業部長から「部員のK君が3日も無断欠勤している」と連絡が入りました。K君は一人暮らしでしたが、携帯電話も使えなくなっていたため、上司とともに本人のアパートに駆けつけました。

   呼び鈴を押しても反応がないので、大家さんにお願いして鍵を開けてもらったところ、部屋はもぬけの殻。警察に連絡して捜索活動を始めました。ご両親も行方に心当たりはなく、友人に聞いたり、行きつけのパチンコ店に聞いたりしました。

   やっと発見されたのは、「自殺の名所」で知られる地方の民宿でした。銀行のATMで、本人の口座から現金が引き出されたことから足取りがつかめました。銀行は、親族の承諾があれば捜査に協力してくれるということでした。

   本人から聴くところによると、上司からのプレッシャーが強烈で、それに過労が重なり、職場から逃げ出してしまいたかったのだそうです。生きて発見されたことは良かったのですが、この社員の扱いを今後どうしたらよいか悩んでいるところです。

   無断欠勤したことや、失踪したことが、残された同僚の仕事面や心理面に与えた影響も少なくありません。厳しい処分が必要と思う一方で、原因を調べ、本人の心のケアもした上で職場に戻さなければ、とも思っています――

臨床心理士 尾崎健一の視点
「処分よりも心のケア。精神状態の安定が最優先」

   失跡は、大きな精神的負担が原因であることが多いので、リスクが高い事象として対処してください。自殺の名所に向かっていたとすれば、万一のことも考えていたと想定して対処すべきです。無断欠勤に対する処分よりも、心のケアが優先されます。産業医や精神科の医師に相談し、うつ症状などがないか確認してもらいましょう。

   必要に応じて休職させるなど、精神状態の安定を図ることが先決です。休職期間中の仕事は他の部員が対応することを伝え、上司から安心するよう言葉掛けをするなど、会社のことが気掛かりにならないよう配慮しましょう。そうしないと、万一の心配がぶり返してしまいます。復職の際は、元の職場が良いかどうか十分に検討の上、医師と上司の意見を踏まえて決めることが必要です。

   また、残された同僚の心のケアが必要になる場合もあります。各人の思いを一人で抱え込んだりしないよう誰かに開示したり、同様な思いの人たちで共有したりする機会を持つことに効果があると言われています。カウンセラーや医師など第3者の専門家の協力を仰ぐとよいでしょう。

社会保険労務士 野崎大輔の視点
「パワハラの有無を確認し、再発防止を」

   今回の事件のきっかけが、仮に上司のパワハラだとしたら、労務管理上、再発防止策を講じておく必要があります。同じ「注意」でも、受け手によって感じ方が異なりますが、双方から聴き取りをして事実を把握しておくことが不可欠です。

   K君が無事に戻ってきたとしても、今回の件で職場の同僚や上司は快く迎える気持ちにはなれないかもしれません。気まずい雰囲気の中で仕事するのは、部署全体のパフォーマンスに悪い影響を及ぼします。現職復帰が原則ですが、これを機に別の部署へ異動させることも考えられます。本人にとっても、環境を変えて心機一転ということもあります。

   なお、就業規則においては、一定期間「行方不明」が続いた場合のルールを定めておくことがポイントになります。注意点は、行方不明を理由に「解雇」するのではなく、「退職」として定めておくことです。解雇にすると、解雇予告をするか、もしくは解雇予告手当を支払わなければなりません。退職にすれば、これらの手続は不要になるわけです。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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