社員同士のけんかで負傷者、これも労災?

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   不況で人減らしが起こり、働く人の残業が増えたり、コストダウンを余儀なくされたり、給与カットされたりして、ストレスが溜まる一方。「不機嫌な職場」のギスギス感が高まっている。社員間のコミュニケーションが悪ければ、ちょっとした行き違いが暴発につながることも。ある会社の工場では、恐れていた事態が起きてしまった。

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機械作業の順番をめぐって揉み合いに

――製造業の人事です。ある工場長から、工場内で作業員同士の小競り合いがあったと報告を受けました。機械作業の順番待ちをしていたA君とBさんが、作業の順番をめぐってけんかになったのだそうです。
   自分の順番を抜かされたと思ったA君が、Bさんに文句を言ったところ、いわれのない言いがかりと感じたBさんが反論。A君が暴言を返して、言い争いの末に揉み合いになってしまいました。
   BさんがA君の肩を小突いたところ、はずみでA君がよろけて機械のパイプ部分に強く背中を打ち付け、現場は一時騒然に。気付いたリーダーが止めに入り、事態はようやく収拾したように見えました。
   しかし、問題はそれで終わりませんでした。A君は終業後に病院へ行き、打撲と診断されて湿布などの処置をしてもらったのですが、翌朝から「首が痛い」「頭が痛い」と言って、通院を理由に遅刻したり、会社を休んだりするようになりました。
   あらためて医師に相談すると、「ムチウチの疑いがある」として、長期の通院が必要と言われました。そこでA君は、
「起き上がっていると辛いので、しばらく休みを取りたい。これまで有給休暇を使って通院してきたが、今回はそもそも会社での出来事が原因なので、労災を申請したい」
と、人事に手続きを求めてきました。
   確かに工場内で起きた出来事であり、原因も機械作業の順番をめぐってのことです。しかし、作業員同士のけんかが労災と認められては、会社も手の打ちようがありません。このような場合は、労働災害と認められるのでしょうか。特に、個人的な問題が絡むようなケースについて知っておくべき知識があれば教えてください――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「けんかによるケガ」でも労災になる場合がある

   ケガや病気が労働災害に当たると判断するためには、労働者が使用者の支配下にあるという「業務遂行性」と、業務と災害との間に因果関係があるという「業務起因性」を満たしている必要があります。けんかによるケガは、他人の故意で起きた第三者行為によるものなので、業務起因性(「仕事が原因で起きた」ということ)が認められにくいのです。今回のような場合は、原則として労災ではないと言えるでしょう。しかし例外もあって、上司が部下に対して仕事上の注意をし、逆恨みで殴られケガをした場合には、業務起因性が認められる可能性もあります。したがって、一見普通のけんかに見えても判断はケースバイケースです。

   労災申請書類は会社が作成し、社員が病院に提出して、労働基準監督署が労災と認めればお金が下ります。スムーズな手続きのためにも、労災かどうか迷うケースは、あらかじめ会社から労基署に照会しておいたほうがよいでしょう。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「職場の人間関係維持」は会社の課題でもある

   連絡ツールが電子化されたり、仕事がタコツボ化したりするなかで、社内の人間関係が希薄になっています。そのせいで、ささいなきっかけで職場が険悪な雰囲気になったり、けんかに発展したりするおそれが高まっています。

   特に若い人たちの間では、職場の人たちとは必要以上のかかわりを持ちたくないと思う人もいるようですが、会社としては人間関係が原因のトラブル(もめごと、メンタル問題、ハラスメントなど)を避けるため、リスク管理の観点から社内の人間関係を良好に保つことは重要な課題です。

   スタッフ間でのあいさつを奨励したり、管理職が声をかけて定期的に面談をしたりすることは、隠れがちな変化や不満を表面化させるために有効です。飲み会や食事会という機会を設けてもよいかもしれません。ただ、アルコールの席だけで感情的に不満を解消できるかというと、そうでもありません。きちんと不満を聞き取って正面から解決することの方が重要です。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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