2024年 4月 19日 (金)

英エコノミスト誌に見る「原発ディベート」の進め方

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   日本の原子力発電所の事故について、世界中のマスコミが様々な角度から議論をしている。経済・政治の分野で世界を代表するThe Economist(英エコノミスト誌)のウェブ版では、エコノミスト・ディベートというコーナーで論争がくりひろげられた。

   原子力反対の論陣を張ったのは、環境団体E3Gの創始者トム・バーク。賛成は、世界原子力協会の広報担当ディレクターであるアイアン・ホーレイシーだ。互いに議論をやりとりし、それをもとに読者が投票するシステムになっている。

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論点は「戦争への転用リスク」と「温暖化問題」

オンライン・ディベートで議論が深まっていく
オンライン・ディベートで議論が深まっていく

   このオンライン・ディベートのやり方が優れていると思うのは、賛成・反対の両者が冷静に意見を述べ合うことで論点が明確になり、議論が深まっていくことだ。

   日本の言論界では、議論というよりは「言いっぱなし」が多く、自分の言いたいことを言うだけで、違う意見に耳を傾けようという姿勢が感じられない場合が大半ではなかろうか。

   エコノミスト誌のディベートでは、日本で一般的に議論されているのとは異なる論点での議論がなされていることも注目される。原子力反対派のバーク氏は言う。

「なぜ世界に原子力発電所がない方がいいのか。それは『放射能のリスクを避けるため』というのが主な理由ではない。原子力を平和利用すると、その後に必ず戦争目的に転用されることになるからだ」

   これは、現実に放射能の害に悩まされている日本人にとっては、納得しにくい論だろう。欧米人にとって放射能問題はしょせん他人事なのでは、という風に思えざるを得ない。もちろん、世界では核兵器への心配が重要な位置を占める、ということを理解することは必要ではあろうが。

   もう一つの論点は二酸化炭素の問題だ。ディベートのモデレーターを務めたエコノミスト誌のモートン氏は言う。

「原子力によって輸入の化石燃料に頼らずに安定的な電力を得られるということが、日本をはじめ他の国に評価されている。同様に、化石燃料を燃やすことで引き起こされる気候への悪影響も避けることができる。もし原子力を止めて他のもので今の電力を賄うとすると、二酸化炭素の年間排出量が20億トンも増えてしまう。地球温暖化を止めたいと思っている人は、この点を認識しないといけない」

   日本では地球温暖化問題は原発問題の陰に隠れてしまったようにみえるが、欧米では今もこれが最重要な論点だと見られているのだ。

結果は「原発容認派」の圧勝

   福島第一原発の問題については、どうとらえられているだろうか。バーク氏は、そのリスクを強調する。

「冷却能力の喪失による大事故は、今までに3回起きた。…これは原子炉が5000年稼働して1度起きる確率である。世界に原子炉は400強あるので、ほぼ10年に1回ということになる。納税者が負担するコストの大きさを考えると、どんなに原子力に対して好意的な国の政府でも、本当にリスクに見合ったものか疑問を感じ始めるのではないか」

   一方、ホーレイシー氏はこういう。

「こんなに死傷者の少ない大事件が、他にあるだろうか?放射能による死者や重症者は今のところゼロであり、地震と津波により東京電力の敷地内で3人亡くなっただけだ。もしも沿岸部にある液化天然ガス(LNG)ターミナルで、想定の倍以上の津波が襲ったらと思うとぞっとする」

   さて読者投票の結果だが、原発賛成が61%で反対が39%。原発容認派の圧勝に終わった。

   この結果には、日本の原発の問題が多くの欧米人にとっていわば「対岸の火事」に過ぎないこと、読者にはビジネスマンが多いこと、原発を地球温暖化解決の切り札としてとらえている人が多いこと等の影響があるものと思う。

   ともあれ読者からの数百のレベルの高いコメントを読むにつけ、英語圏での言説の確固たる基盤を見た思いがする。

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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