「英語公用語化」で社内がまっぷたつになりそう

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   IT大手が「社内公用語を英語にする」と発表したときには、外野から一斉に揶揄する声もあがったが、社内では意外と前向きに取り組まれていると聞く。

   しかし、平均年齢の高い中堅企業でマネをしようと思っても、同じようにいかないところもあるようだ。ある会社では、「英語公用語化」の賛成派と反対派が対立し、社内まっぷたつの様相を呈している。

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反対派「あいつら俺たちを見下している」

――中堅製造業の経営企画室です。海外売り上げ比率が3割を突破し、念願の5割達成も見えてきました。社長は「社名ロゴをアルファベットに変えようか」と上機嫌です。

   すでに新たな海外提携の話も出ており、英語の得意な一部の社員だけでは仕事を物理的にカバーしきれなくなっています。

   そこで社長は英語に強い社員を積極的に中途採用し、「ビジネス言語としての英語を社内公用語にする」という案を真剣に検討しろと言い出しました。

   さっそく部門長会議の議題にかけ、「海外で売れる商品を開発するため、現地を含めた議論を活発にするには英語が必要だ」「社内文書を英語で統一しないとコストアップになる」などと説明し、意見を求めました。

   しかし、50代の男性がほとんどを占める部門長たちの顔色は冴えません。劣勢を察知したのか、賛成派の若手部門長が手を挙げて、

「将来の会社の成長に、英語公用語化は不可欠なんだ。もう反対なんて言っていられる時代は終わったんですよ!」

とぶち上げました。

   会議の後、現場のベテラン本部長など反対派の数人が執務室にやってきて、「あいつら(賛成派)は俺たちを見下している。何様だと思ってるんだ」と憤っています。

   このままでは、社内がまっぷたつに割れてしまうかもしれません。社を挙げて一致団結してやらなければならないときに、こんなことで揉めるようなら、公用語化なんてやめた方がいいでしょうか――

臨床心理士・尾崎健一の視点
「ついてこられない人は切る」では仕事が回らない

   十年程前まで、外資系企業に勤めていました。メンバーに外国人がひとりでもいる場面では、会議やメールは英語を使うことがルールでした。英語が得意でない私にとって、あまり楽しい時間ではなかったので、公用語化の推進派とは言えないかもしれません(笑)。とはいえ、会社の将来に必要であれば、過渡期に生じる問題を解決しつつ、思い切って公用語化を進めることも必要でしょう。

   ただし、推進を決めた場合には社員に不安が広がったり、社員間に感情的な対立が起こるおそれもあります。また、「ついてこられない人は切る」と言って急に異動させたりすると、既存の仕事や業務システムが回らなくなってしまいます。心理的な不安がモチベーションを下げる場合もあります。新入社員や中途入社に英語力を重視するのはよいとしても、現在の仕事を担う人たちには、英語力の弱さだけですぐに冷遇しないと説明し、学習機会の提供などの便宜を図りつつ、円滑に企業体質を変えていくようにした方がよいでしょう。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
効果が上がる部署から導入し、課題を洗い出す

   社長が「検討を指示」している理由は、英語公用語化の影響がどの範囲の業務フローに及ぶか、何が課題になるのか洗い出してみろ、ということではないでしょうか。たとえば人事の視点から見ると、「学生時代によく勉強した人が集まる」「国際的に優秀な人材を集められる可能性が広がる」ようにも思えますが、初期の段階では「日本人学生から敬遠され、応募人数が減ってしまう」リスクも考えられます。

   大手以外でも英語公用語化を進めている会社はありますが、主要業務の変更に数年単位のスケジュールを立てているようです。まずは英語の必要性が高く、効果の上がりそうな部門だけ先行してやってみるのも手です。海外進出先が増えるにつれて、言葉の誤解による行き違いのほか、現地の文化や習慣、宗教的な背景の違いによる労務管理上のトラブルも増えていくと聞きます。他国と国境を接する欧米企業では当たり前のことを、日本企業も学んでいく必要がありそうです。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
野崎大輔・尾崎健一:黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術
野崎大輔・尾崎健一:黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術
  • 発売元: 小学館集英社プロダクション
  • 価格: ¥ 1,365
  • 発売日: 2011/06/30
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