日本人は長時間働きすぎるから幸せになれない

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   日本人は勤勉だ、という評判は世界でも名高い。OECD(2010年)の統計によると、日本人の平均労働時間は年1,733時間。フランス人・ドイツ人はそれぞれ年1,500時間と年1,309時間だから、それよりだいぶ長く、アメリカ人の年1,778時間に匹敵する。

   仮に日本人が年に2か月まるまる休んだとすると、フランス人並みの労働時間となるが、ドイツ人並みにしようとすると2か月どころか、3か月間休む必要がある。

労働生産性がG7諸国で最低な理由

   アメリカ人の労働時間が長く、ヨーロッパ人が短いことは、欧米のメディアでよく話題となる。アメリカ人の1人当たりGDPは、ドイツ人やフランス人より2割ほど高く、そのため、

「アメリカ人のように長時間働いて儲けるか、ヨーロッパ人のようにたっぷり休暇をとってほどほどの収入で満足するかの、選択の問題だ」

という結論に落ち着くことが多い。しかし、そうは単純に言えないのが日本のケースだ。日本人は長時間労働をしているわりに成果が上がっていないのだ。

   フランス人より2割近く、ドイツ人より約3割も長く働いているにもかかわらず、1人当たりGDPはドイツ・フランス並み。そのため「日本人はだらだら非効率に働いているのでは」という疑いが出てくる。事実、日本人の1人当たり労働生産性はG7諸国で最低だ。

   なぜ日本人は長時間働くのか。それには次の理由が考えられる。まず、休暇をとらずに働くことを称揚する文化がある。仕事の結果よりも会社に対する忠誠心が重視される傾向にあり、「上司より先には帰りにくい」というような不合理な慣習が存在する。

   労働組合が会社と結びついているので、労働条件について会社に強く要求しないことも関係している。サービス残業や有給休暇の未消化といった明らかな違法状態さえも放置されている。

   また、単純に量で勝負している会社が多いので、

「売上げがアップするように長時間頑張ろう」

という発想になる。質の競争になりにくい。しかし、言うまでもなく長時間労働には問題が多く、さまざまな社会的な問題の要因のひとつになっているおそれすらある。

時短を進めても経済にさほど影響ない?

   まず、じっくりと物事を考える時間がとれなくなると、新鮮な発想やイノベーションは生まれにくく勉強時間もとれない。働き過ぎは健康に悪く、ストレスを生む。日本人が幸福を感じることが少ない理由の一つは、長時間勤務にあるのかもしれない。

   長時間勤務のために多くの人(特に男性)が家事を顧みなくなり、子育てなどに時間を割かないのが当然になっている。実はこれが少子化の遠因なのかもしれない。

   1人がやたらと仕事を抱えることで、他の人に仕事が回らなくなる。社会全体でみると失業率悪化の原因の一つになっているのではないか。休暇が少ないと個人がカネを使うチャンスが減り、景気にマイナスとなることも考えられる。

   日本人は時短をすすめるべきだと思う。休みを多くとると経済活動にはマイナスに作用するが、一方でリフレッシュされることで仕事の効率がアップし、生産性が向上することが見込まれる。トータルでは経済にさほど悪影響はないように思える。

   日本人はもともと能力が高い国民だ。まじめで器用で勤労意欲が高い。十分な休暇を取って効率よく働けば、今の停滞する経済に活力が生まれるだろう。

   ちなみに私は今までに米独英仏の4か国の金融機関で勤務したが、働き方について国籍の違いはそんなに感じなかった。これは、グローバルの金融市場でまったく同じ条件で戦っていること、自営業のように結果を残した分だけ収入がとれること、若い時に頑張って早くリタイアしたいと皆が思っていること等によるものと思われる。この点は金融業の特殊性もあるかもしれない。

   今、サルコジ仏大統領はリビエラで、メルケル独首相はイタリア・アルプスで休暇中だ。暑い夏は無理せず十分に英気を養う、というのは正しい戦略だと思う。

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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