「お前の会社をつぶしてやる!」 電話口で呪いをかけるお客さま

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   「ああ、また減っちゃった……」。体重計を見て私は愕然としました。新卒で入った会社で、債権回収を行うコールセンターに配属されて半年。私の体重は入社前より10キロも減ってしまいました。

   もしかしてこれって、あのお客様の「呪い」? 私は頬がこけて不健康に痩せてきた鏡の中の自分を、じっと見つめました。

水晶玉購入者の「意外な正体」

「私は霊能力者なんだ。呪ってやる」「えぇ!!」(イラスト:N本)
「私は霊能力者なんだ」「えぇ!」(イラスト:N本)

   そのころ私は、あるお客様にショッピングクレジットの督促をしていました。品物やサービスを購入する際に信販会社が代金を肩代わりし、分割払いで返済してもらうクレジットカードの代表的な利用方法です。

   購入された商品は――「水晶玉」。クレジット払いは色々な商品に使われていますが、なかなか珍しい品物です。ずいぶん長い間お取引いただいており、完済も目の前に迫っていたのですが、遅れがちだった入金が最近はさらに遅くなっていました。

「恐れ入ります。エヌモトと申しますが、Aさまはご在宅でしょうか?」
「Aは留守です」

   延滞をお知らせする督促の電話をかけると、電話口に出られたのは、ご契約者さまの奥さまと思われる高齢の女性でした。

「アンタあれでしょ、カード会社でしょ。用件は分かってる。もう電話しないで下さい」
(う……、困ったな)

   ここのところ支払いの遅れが毎月出ていたので、奥さまは電話をかける私の事を覚えていたようでした。確かに毎度電話がかかってくるのは迷惑だと思いますが、電話をするなと言われて完全に止めてしまっては、代金の回収ができないのも事実です。

   「ええと、Aさまに直接お伝えしたい事がありましたので、また改めさせていただきますね」。要求をやんわりと流して電話を切ろうとした瞬間、受話器から何とも表現しがたい暗い声が響きました。

「呪ってやる……」
「へっ?」
「私は霊能力者なんだ。私の言う事をきかなかったら、お前の会社をつぶしてやる!」
「……えぇ!!」

テクニックとともに必要な「心のタフさ」

   そうか、水晶玉ってこういうことだったんですね!と妙なところで納得している場合ではなく、私は驚きのあまり固まってしまった頭を必死に動かして「……また改めます」という言葉を絞り出し、電話を切りました。

   督促の電話をしていると「殺してやる!」と脅されることは珍しくありませんが、「呪い」をかけられたのは初めての体験でした。電話の後はなんだか体が重くなったように感じました。まさか、これが呪いの効果なんでしょうか。

   そしてその後も、お客様に電話をする度に私は呪われることになりました。

「あのう、ご契約者さまをお願いしたいのですが……」
「また電話してきたのか。先日××という会社が潰れただろう。あれは私が潰したんだ」
「さようでございますか…」
「今、お前も呪っている」
「さっ、さようでございますかー!」

   督促で難しいのは、実は資金がないお客様よりも論理が通じないお客様なのかもしれません。ご契約者さまに資金がなく支払いができない場合は、減額したり資金ができるまで支払いを延ばしたりして対応します。

   けれど支払いのお願いしても聞き入れて下さらないお客様とお話をする場合、交渉のテクニックよりも、何を言われても気にしない心のタフさが必要になってきます。

   このお客様はその後、奥さまがご不在の時にご契約者さまと電話がつながり、無事入金していただくことができました。でも入金していただいた後は、なんだかゲッソリ。やっぱり「呪い」の効果はあったのかもしれません。

N本(えぬもと)

>>債権回収OLのトホホな日常・記事一覧

債権回収OL・N本(えぬもと)
某金融機関で債権回収部門に所属する20代OL。コールセンターで支払延滞顧客への督促を担当している。入社半年で3億円の回収を達成して頭角を現し、10万件の顧客を担当する精鋭チームに最年少で配属された実績を持つ。他人に強く言えない気弱な性格を逆手にとり、独自の「交渉メソッド」を開発。300人のオペレーターを指導しながら、年間2000億円の債権回収に奮闘している。好きなものは、ビールとスイカ。ブログ「督促(トクソク)OLの回収4コマブログ」。(本コラムは当事者のプライバシー保護のため、一部事実と変えている点があります。)
榎本まみ:督促OL 修行日記
榎本まみ:督促OL 修行日記
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 1,208
  • 発売日: 2012/09/22
姉妹サイト