2024年 4月 16日 (火)

頭のいいヤツに囲まれながら「根拠のない自信」をつける方法 
中川淳一郎×常見陽平対談(上)

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   東日本大震災を契機に、ツイッターなどソーシャルメディアにおける情報流通が爆発的に増え、20代、30代の発言が目についた2011年。中でも大企業や大学などのしがらみを離れ、個人の意見を鋭く発信しているのが1970年代前半生まれの世代だ。

   彼らはこの時代に、どんなスタンスで向き合っているのか。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏(1973年生まれ)と、人材コンサルタント常見陽平氏(1974年生まれ)に意見を交わしてもらった。なお2人は一橋大学の同級生で、ともに同大プロレス研究会のメンバーとして活躍したが、卒業時に想定外の「就職氷河期(第一次)」に当たって大苦戦し、数々の苦汁をなめた経験を持つ。

ココロは「ゲーム好きな少年」のまま?

中川淳一郎氏(ネットニュース編集者)
中川淳一郎氏(ネットニュース編集者)

常見 今年は同世代の「論客」が、表舞台に出てきた年だったよね。津田大介さんや城繁幸さん、『ラーメンと愛国』の速水健朗さんが1973年生まれ、学年がひとつ上の山本一郎さんも早生まれの73年。もう少し広く取ると、上は『一般意志2.0』の東浩紀さんの71年から、下は雨宮処凛さん、コンデナスト・デジタルの田端信太郎さんの75年くらいまで、みんなネットで自由に発言してる。で、冷静に考えると、僕らもうアラフォーなんだよね。

中川 そうだよ、おっさんだよ。太平洋戦争の開戦時、真珠湾攻撃の総隊長だった淵田美津雄は39歳だったし、秋山真之が日露戦争で活躍したのも36とか37。彼らと比べると、オレら若いつもりというより幼稚な感じもするけどね。以前、津田さんが家に遊びに来たとき、何をしたかというと、一緒に「スト2」とか「ファミスタ」とか(のゲームを)やってたんだよ。1986年に発売されて、大介少年や淳一郎少年が夢中でやってたものを、25年経ってもまだやってる(笑)。

常見 そういう子どもっぽいところが、あんまり権威にとらわれず自由に発言している理由なのかもしれないね。就職氷河期を経験した「ロスジェネ世代」で、苦労して就職したのに辞めちゃうし。まあ、会社というステージで自由に活躍するのもいいけど、でも安易に会社に人生預けるなってことだよ。

中川 国にも会社にも頼れない。個人の力だけが頼り、としか思ってないから。オレは選挙にも行かないし、何があろうと世の中の波に乗って生き抜いてやろうとしか考えていない。社会がこうあるべきとか関係ない。ただ、他人をダシにして「こうすべきだ」とか言って儲けているヤツがいると、それってどうなの? と言いたくなる。他人に「フリーはいいよ」とか「起業しなよ」なんて言いたくもない。他人の人生の方向性を示すなんておこがましい。聞かれたらとりあえずネガティブなことだけ言う。どうせ聞いてる時点でそいつはその方向へ行こうと腹くくっているはずだから、リスクを伝えた方がいい。

常見 そう、自分の人生は自分で決めろ、と。実際、フリーも起業も大変だからね。楽しいけど、皆が思うほど甘くない。ちなみに僕は選挙には必ず行くし、自分の世代の問題を考えるのと一緒に、次世代のことも考えようと思ってるけどね、それは大学で講師をしているからかもしれないけど。勤め先も特にタブーはないけど、あるとすれば奥さんから「そんなこと言ったら、次の仕事取れなくなるよ」と釘を刺されることくらいかな(笑)。

早慶だったらCランクだったけど、一橋だったからSランク

常見陽平氏(人材コンサルタント)
常見陽平氏(人材コンサルタント)

中川 オレたちも1996年の就活組だから一応「氷河期」だったけど、常見は就活のころ、かなり迷走してたよね。いまでこそ学生にアドバイスしてるけど、オレが見た就活生の中では一番迷走してた。「そこ、お前が受ける会社じゃねえだろ!」ってところを受けて、落ちまくってた。

常見 (商学部の)竹内弘高先生のゼミのケーススタディに出てきた外資系企業とか、マーケティングで有名な会社ばっかり受けてた。ゼミの勉強も大変だったから、徹夜で勉強して何の準備もしないまま面接に行ったりしてたけど。

中川 常見のいいところは、頭がおかしいところと、迎合せずにガンガン言うところなのに、そんな会社受けてもしようがない。名前も聞いたこともないような会社を受けるべきだった。

常見 まあ、自分らしさだけを追求するのはおかしいと思うけど、らしくないことをするのは残酷というか、カッコ悪いよね。いや、それこそ就活生にアドバイスなんてする資格がないくらい、ダメな就活生でしたよ(笑)。でも、迷走したからこそ言えることもある。

中川 結局、リクルートに入れたからなあ。

常見 いや、あの当時はリクルート事件の影響も残ってたし、負債も約1兆円あったから、それほど人気はなかったんですよ。「競争戦略」勉強してたら、あの頃のリクルートには行かないよ。

中川 そんなことないよ。だってオレ、落ちたもん。で、オレがいまこうして仕事をしていられるのも博報堂に入れたからなんだけど、実は17社受けて入れたのはそこだけ。他の大手広告代理店は書類で落ちたし、テレビ局も日テレを除き書類で全部落ちた。ビール会社も書類で全部落ちたし、惨憺たる状態だった。なぜ(博報堂に)入れたかというと、たまたま指定校枠があったからなんだけど。

常見 優秀な先輩たちが頑張ってくれてたんだね。

中川 でも一橋って頭はいいけど、クソ真面目でつまんねえヤツも多かったわけですよ。みんな弁護士になるとか、会計士になるとかいって。その中で、プロレス研究会として実際にプロレスしていた俺と常見は最高にアホで面白い部類だと他からは見られていた。早慶だったらCランクの面白さだったかもしれないけど、一橋だったらSクラス、というか学内で露悪的にバカなことをやるヤツは他にいなかった。

常見 エンタメレベルの低い大学だから、プロレス研究会のチケットやフリーペーパーがあっという間にさばけたし、イベントも大ウケだった。

中川 そこで根拠のない自信がついてしまった。それが「シューカツ界の変な人」「ネット界の変な人」として世に出て行くときの原体験になってるんだよ。

常見 うん、これは他の大学の学生の就活でも大事なことだと思う。小さい世界の中でも大きな成功体験、だな。

「普通の女子大生」を吹き飛ばしたAKB48の罪

「就活は惨憺たる状態。でも戦って勝てる場所を探して生き残ってきた」
「就活は惨憺たる状態。でも戦って勝てる場所を探して生き残ってきた」

常見 要するに、大学で「相対的な自分の面白さ」に出会うことができたってことだよね。それって早慶で下位10%になっちゃった人と、いわゆるMARCHレベルの大学で上位10%になれた人を比べると、後者の方が頭がいいし、物事に自信をもって当たれる人が多いのと同じだと思う。いわゆるFラン大学でも、大学で成長して学内でトップクラスになれば、超面白いヤツとして出ていくこともありうる。Fランって、元大企業幹部とか元官僚とかがいっぱいいて、有名な先生の教えを受けることができるんだよね。

中川 戦って勝てる場所を探すことが大事だね。一橋では会計とか法律とかの分野は、ものすごい激戦だった。滅多なことで勝てるわけがない。その中でポジション取りを考えて、バカを売りにしてきたオレたちが、卒業10年後の同窓会で、(一橋の)准教授になった立派なヤツに続いて2人で壇上スピーチし、プロレスしてるんだから面白い。よくぞ主催者は、バカなオレたちをセットで登壇させたもんだよ。

常見 それって「元々特別なオンリーワンのままでいい」じゃなくて、「ナンバーワンを目指せ。ニッチでもいいから」ということだよね。「一橋世界ヘビー級チャンピオン」みたいな(笑)。

中川 そこがソーシャルメディアでの勝ち方にも通じるんだよ。大井町の寿司屋「すし処さいしょ」がツイッターでの客寄せに成功した最初の寿司屋になったけど、他の寿司屋が同じことをやっても、もう注目を集められない。枠はひとつしかないんだ。

常見 Google+で日本一人気のある「普通の女子大生」は、早稲田大学の坂口綾優さんひとりだったもんね。もう誰も同じニッチのチャンピオンは名乗れない。

中川 でも、そういう多様性のあるクラスターが共存できるツールが、ソーシャルメディアのよさだったのに、Google+にAKB48が参入してきた途端、人気上位100人のほとんどを占領してしまったのはホント皮肉な話だよな。

常見 話題を集めてユーザーを一気に増やそうと思ったんだろうけど、ありゃないよ。ネットは一般人が強くなるツールと言われてきたけど、Google自らその芽を潰しちゃった。結局、芸能人とスポーツ選手の人気投票の場になって、中川の「ネットはバカと暇人のもの」を証明してしまった。

中川 誤解してもらいたくないんだけど、オレはネットはそういう気軽な使い方でいいよね、と言っているだけで、ネットユーザーを「バカ」と批判してるわけじゃない。むしろ「ネットは頭のいい人間が使うものだ」と言っているヤツに対して、現実を見ろといいたいだけなんだ。



中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者。博報堂コーポレート・コミュニケーション局で企業の広報活動業務に携わった後、2001年に退社。「日経エンタテインメント」ライター、「テレビブロス」編集者を経て、ネットニュース編集者となる。『ウェブはバカと暇人のもの』『凡人のための仕事プレイ事始め』など著書多数。

常見陽平(つねみ・ようへい) 人材コンサルタント。リクルートでとらばーゆ編集部などに携わった後、大手玩具メーカー採用担当を経て、クオリティ・オブ・ライフに参加。実践女子大学、白百合女子大学、武蔵野美術大学などでキャリア教育科目を担当する。『「キャリアアップ」のバカヤロー』『くたばれ!就職氷河期』など著書多数。最新刊『就職の神さま』。

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