2024年 4月 18日 (木)

ムリな接待でタクシーに嘔吐 「クリーニング代は会社が払え!」

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   不況下で会社が収益を絞りだすために、社員に過重労働を強いるようになって久しい。成果を手っ取り早く出したい上司は、能力が高く処理スピードが速い社員に仕事を集めるので、特定の社員が疲弊するのもよくあることだ。

   ある会社では、多忙すぎる中堅社員が接待後に体調不良で嘔吐してしまい、人事部に「上司の責任」を問いただしに来たという。

「好きで吐いたんじゃない。仕事で吐いたんだ」

――専門商社の人事です。中堅営業社員のAさんから、興奮した様子で相談に来ました。先日、重要顧客の引継ぎを兼ねた新年会があり、B課長とともに先方の接待をしたそうです。

   Aさんは年末から出張続きで、その日も3日間の出張から帰ってきた足で参加しました。疲労が蓄積し風邪で高熱も出ていたので、出張先からB課長に日程の延期を打診しましたが、受け入れられなかったといいます。

   宴席でソフトドリンクを頼もうとしましたが、B課長の「こいつは酒が強いので、なかなか頼もしいんですよ」という言葉に乗って、先方も絶えずビールを注ぎます。

   帰り道、Aさんはタクシーの中で激しく嘔吐してしまいました。後部座席がすっかり汚れてしまったので、運転手に謝ったうえ、相談してクリーニング代3万円を支払い、受取証をもらいました。

   2日間寝込んで出社した日、AさんはB課長のところに行って事情を話し、受取証を示して、会社がクリーニング代を支払うよう頼みました。しかしB課長は、

「自分が酒を飲んで吐いた始末を、会社に払わせるやつはいないだろう。タクシー代は精算するが、クリーニング代はムリだ」

と突っぱねました。これを聞いたAさんは激昂し、

「接待は大事な仕事だから出ろと言ったのは、課長じゃないですか? こっちだって好きで吐いたんじゃないんです。仕事で吐いたんですから、会社に責任ありますよ!」

と反論し、その足で駆け込んできたのだそうです。接待が休めない仕事であったのは間違いないようですが、帰りのタクシーの中で起こったことまで会社が面倒みないといけないものなんでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
労災になるおそれも。クリーニング代は会社が払えば

   今回のケースは、労働災害と認められるおそれもあると思います。労災は、会社の管理下で発生したという「業務遂行性」と、業務が原因で負傷、発病したという「業務起因性」の2点で判断されます。連続出張で疲労している状況で、上司から接待での飲酒を強要されたことが原因で体調不良になったとしたら、労災になる可能性があるわけです。もし労災となれば、クリーニング代は出ませんが、医療費などが給付されます。

   とはいえ、仕事中に骨折したなど判断しやすいケースではないので、上記2点の立証することも容易ではなく、労災申請が認められるかどうかは個別の事情を踏まえて労働基準監督署が判断することになります。実務上、このようなケースで申請することはほとんどないと思われます。

   Aさんの心情を考えれば、会社はクリーニング代を全額支払った上で、ねぎらいの言葉をかけ、B課長に過重労働の解消を検討してもらうようにすべきではないでしょうか。3万円の支払いを拒むことで、Aさんの不満が高まれば、それ以上のコストがかかるリスクも大きくなると思われます。

臨床心理士・尾崎健一の視点
現場の管理職に任せていたら過重労働はなくならない

   今回のケースは、B課長がAさんを過重労働に追い込んだ、と言っていいでしょう。「パワハラだ」と訴える人もいるかもしれません。社員の管理は、いちばん身近にいる直属の上司がした方がよいといわれていますが、今回のケースでも分かるように、業務優先で部下の負担に無頓着、あるいは無理を平気でやらせる上司は少なくありません。業務の成果と健康管理という、時には相反する管理をしなければならない現実もあります。

   おそらくB課長だけに任せていては、Aさんの過重労働は解消されないでしょう。社員の健康管理は、本来管理職の役割でありますが、上記のような理由できちんと行われないこともあります。コンプライアンス違反を防ぐために、残業時間や出張の状況を人事がチェックし、特定の社員や部署に負担がかかりすぎている場合には、人事から注意を促すしくみを採用している会社もあります。ある時間を超えるとアラート機能が作動するシステムもあります。現場の仕事のしやすさを妨げない形で、人事が適切に介入するしくみを作るべきではないでしょうか。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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