「ワークライフバランスなんて無理!」 経営幹部は大反対

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   仕事と生活のバランス――。ワークライフバランスという言葉が聞かれて久しいが、それが何を意味しているのか、どの程度理解されているのだろうか。「仕事も生活の一部なのに、なぜ切り離すのだ」「経営上の必要性は本当にあるのか」という意見もある。

   ある会社では、セミナーを聞いて感化された社長が「ワークライフバランスを考えよう」と呼びかけたのにもかかわらず、幹部たちの反応が意外なほどよくないのでガッカリしたという話があった。

「そういうのは、大手がやればいいんですよ」

――中小製造業の社長をしています。先日、地元の商工会が主催する「ワークライフバランス」の専門家のセミナーを聞いてきました。

   仕事とプライベートのバランスをとった生活を送ることが、社会人にとって大切だという話を聞かされました。これまで家庭を顧みず、仕事ばかりしてきた身としては、とても耳が痛かったです。

   そこで会社に帰って役員会でセミナーの話を伝え、役員を含む幹部たちに「各部門でワークライフバランスのための施策を検討してほしい」と頼みました。

   しかし彼らは、浮かない顔をしています。どういうことかと尋ねると、「いまだって仕事がこなしきれずに苦労しているのに、そんな取組みをする余裕なんてあるんですか」という答えが返ってきました。

   自分としては、あの仕事一筋の社長が考えを変えたと、みんな喜ぶかと思っていたのに、反応が悪くて正直ガッカリしました。

「そういう社会貢献みたいなのは、大手がやればいいんですよ」

といった反応もあり、伝え方からいろいろ工夫しなければならないようです。社員には自分と同じような後悔をさせたくないと思いつつ、やり方がわからない状況です。

   そこで、お恥ずかしい話なのですが、こういう会社において「ワークライフバランス」の趣旨をどう伝えて、どういう取組みをしていけばいいものでしょうか――

臨床心理士・尾崎健一の視点
経営上のねらいや必要性が明確になっているのか

   会社がワークライフバランスに取り組む際、「プライベートも大切に」とか「社会活動に時間を使いましょう」といったスローガンを掲げるだけでは、抽象的で何を達成していいのか分からなくなりがちです。余裕のない中小企業では、現場の足を引っ張るように見えることもしばしばです。取り組むねらいを明確にし、具体的に何をやるかを決めて、経営者と従業員が同じ方向を向くことが必要です。

   例えば、ねらいや必要性を「社員に精力的、創造的に働いてもらうために、心身を整えてもらう」とし、その時間や場所を確保する支援を行うことが考えられます。まずは労働時間の適正範囲に関する目標を定め、そのための時間管理を厳密に行うことが欠かせません。会社支援として、通勤時間を短くする借家補助やテレワークの推進、スポーツジムの法人会員になるといった方法もあります。こういった取組みは、充実した心身を作り出し、帰属意識を高めて仕事に注力してもらえる環境作りに役立ち、仕事の質や量の向上、ひいては生産性や売上向上が図れる可能性があります。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
結婚して家庭を持てる給与水準にすることも大事

   ワークライフバランスを進める上での一番の課題は、残業時間の削減でしょう。余計な残業代を縮小する効果もあります。とはいえ、労働時間管理を厳密にするだけでなく、ひとり当たりの仕事量を減らさないことにはどうにもなりません。人を増やすか、もしくは仕事を減らす必要がありますが、いずれにしても高度な経営判断が必要であり、社長の決断とリーダーシップが求められます。特に仕事を減らす場合には、事業や業務の「選択と集中」を行わざるを得ません。そこまでやれば、幹部たちも納得するのではないでしょうか。なお、サービス残業を放置するリスクは非常に高いです。厚労省は企業からの内部告発を受け付けていますし、社員が過重労働によって精神疾患になる可能性もあります。過労死になった場合は遺族から訴えられるリスクもあります。

   また、共働き前提でもいいから、結婚して家庭を持てる程度の給与水準にすることも、ワークライフバランスにおいて非常に重要だと思います。ハードワークで疲弊した心身を整え、再び闘えるようにするには、ベースとなる家庭を営めるようにすることが、実は最も重要ではないでしょうか。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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