あなたは「自分は絶対に不正をしない」と言い切れるか
サイフの金が足りなくても「安すぎる」と指摘できるか
では、後の問題で「金額が安すぎると店員に指摘する」を選んだ人は、次のような状況設定がプラスされても、その誠実さが揺らがないと言い切れるだろうか。
a.レジでさんざん待たされたあげく、レジの店員の対応が最悪で、レジの表示を見る頃には怒り心頭に発していた
b.レジの表示を見る直前、財布の中をみたら3,000円しか入っておらず、カードも持ち合わせていなかった
aのような状況では、相手への怒りや恨みで、「仕返ししてやる」「当然の報いだ」などの感情が沸き起こり、「値札より安い値段が表示されても、そのまま支払う」を選択させてしまうかもしれない。
また、bの状況では「おカネが足りない」とは恥ずかしくて言えず、良心がとがめながらも、そっと2,000円を払ってしまうのではないか。
さらに、「金額が安すぎるがそのまま支払う」を選んでしまった「不誠実な人」も、レジ担当者が近所の知り合いだったらどうだろうか。「後でバレたら、次に会ったときにバツが悪いな」と思いとどまり、正直に誤りを指摘したかもしれない。
横領や偽装、汚職などの不正行為の根底にも、これと同じような心理的な葛藤がある。不正に手を染めてしまう人たちも、基本的には「フツーの人間」であり、私たちはみんな自分に甘く、他人に厳しく、誘惑に弱い。
前回紹介した「不正のトライアングル」は、このような心理的葛藤をうまくとらえている。得をしたい欲や相手への怒り、恨みは不正の「動機」につながる。後でバレたらいやだという心理は、不正の「機会」を抑制する効果がある。そして、スーパーのミスであり自分は悪くないなどと「正当化」をしてしまう。
部下を持つ管理職は、自分がいい思いをできる(利益を得られる、損失を回避できる)状況が目の前にあって、誰にも見つからないと思えば、言い訳を見つけて不正に手を染めてしまう弱さが人間にはつきものだということを、肝に銘じるべきだろう。(甘粕潔)