上司が勧める自宅学習 「え、残業代つかないんですか!?」

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   ITを使って効率的な学習を可能にする「eラーニング」。パソコンやDVDプレーヤーさえあれば受講の時間や場所を問わないので、一人ひとりの都合に合わせて学べるメリットがある。企業での利用も、ここ数年で急速に進んでいるようだ。

   ある会社では、上司からeラーニングの受講を強く勧められた部下が、上司から「自己啓発であって業務ではない」「労働時間にカウントしない」と言われて不満を募らせている。自宅で受講できるところも、混乱の元になりそうだ。

上司いわく「スキル向上は自分のため。会社に感謝しろ」

――食品商社の人事です。当社は社員教育の一環で「eラーニング」を導入しました。「社員が自ら学習する習慣と環境を作りたい」という社長の考えに基づいていますが、運用面ではなかなか苦労しています。

   特に大きいのは「仕事が忙しくて学習の時間が取れない」という問題です。先日、営業のAさんから受けた相談も、「課長からeラーニングの受講を勧められたが、残業代は本当につかないのか」というものでした。

「君はもっとプレゼン能力を磨かないとダメだな」

   営業同行のあと、課長からこんな指摘を受けたAさんは、eラーニングの「プレゼンテーション手法」と「ロジカルシンキング」の科目を受けるよう勧められたそうです。

   しかし、毎日遅くまで残業しているAさんにとって、その日の仕事を終えてからeラーニングに取り組むと、深夜残業になるか自宅に帰ってからやらざるをえません。

   Aさんは「eラーニング分の残業をつけてもいいですか」と課長に聞いたところ。こう叱られてしまったそうです。

「おいおい、自分のスキルを高めるのは誰のためなんだ?自分のためじゃないか。労働時間になるわけないだろ。家に帰ってからもできるんだから、会社から学習機会を提供してもらってることに少しは感謝したらどうなんだ!」

   確かにAさんの不満は分かるのですが、他の社員は就業時間中にやっているので、Aさんの対応に迷ってしまいます――

臨床心理士・尾崎健一の視点
上司の発言の意味は「労働時間と認めるか否か」で決まる

   上司の発言は「強制的な指示命令」なのか、それとも単なる「提案」なのか。Aさんには判断が悩ましいところです。「提案だろうと命令だろうと関係ない。本人にとって研修はよいことなのだから、やるしかないんだろ?」という人もいるかもしれませんが、そういう公私混同な考え方はブラック上司と嫌われますよ。

   ポイントは、発言が命令であれば労働時間に含まれるということです。逆に言えば「労働時間になるわけない」と言った時点で強制ではなくなり、Aさんは貴重なプライベートの時間をムリに割く必要がなくなります。しかし話の流れからして、上司はAさんのプレゼン能力向上を「不可欠なもの」と考えているように思えます。Aさんが悩んでいるのは、このねじれのためでしょう。これを解決するには、上司はAさんに課題を提示しつつ受講を指示し、労働時間として認めればよいと思います。

   なお、人事の方は「他の社員は就業時間中にやっているのに不公平」と悩んでいますが、Aさんと仕事内容や業務量が違う人と比べているなら意味がありません。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
強制なら「深夜労働手当」を支払う必要がある場合も

   会社が社員に求める研修等の受講にあたっては、上司の指示がある場合には業務命令となりますので、当然労働時間としてカウントされます。自宅で行われる場合でも「持ち帰り残業」とみなされますし、午後10時以降に行われる場合には「深夜労働手当」として通常の25%増しの賃金を支払う必要があります。

   社員本人の希望で受講する場合には、労働時間にはなりません。ただし、表向きは任意受講であっても、未受講者の人事評価をマイナスにするなど不利益な措置をとる場合には、実質的に強制参加と判断されるので注意が必要です。なお、自宅で受講するなど実際にかかった時間を確認することができない場合には、「標準受講時間」を決めて、その時間分をカウントするようにしてもいいでしょう。なお、強制される学習がきっかけとなって自主的な学習に結びつくこともあるので、強制がいけないとは言いませんが、学習は主体的にやった方が身につくのは間違いないと思います。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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