「まかない料理」は人材育成の場 厳しい先輩の舌が創意工夫をうながす

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   飲食店で働く人たちにとって、従業員用に作られる「まかない料理」は特別な意味合いを持っている。若手にとっては腕だめし、先輩にとっては後輩指導の場でもある。作る側と食べる側、どちらも真剣そのものだ。

   そんなまかない料理を、高級イタリアンの「il desiderio ORTAGGIO」(阪急うめだ本店)でいただいてきた。プレミアムチケットのタイムセールを提供するルクサが主催する「一流シェフのまかないツアー」の一環で、腕をふるっていただくのは総料理長の佐藤真一シェフだ。

同じ食材で毎日違う料理を出さなければならない

創意工夫がこらされた一流シェフ作の「まかない料理」
創意工夫がこらされた一流シェフ作の「まかない料理」

   まかない料理は、基本的にその日のお客さまの料理を作る際に余った食材を使用する。若手の料理人たちが交代で、営業時間中に空き時間を見つけて手早く出さなくてはならない。

   食材はほぼ毎日同じだが、同じ料理を連続して出すことは許されず、多くても週2回に限られている。余った食材をすべて使いきるのも、まかないの鉄則だ。

   こういった厳しい条件のもと、味にうるさい先輩たちを満足させる料理を、アドリブのような形で毎日作らなくてはならない。

「同じ食材にどんなアレンジを加えるか、創意工夫を重ねることがお客さまへ提供する料理作りの勉強になります。他の同僚が作った料理を食べることも、とても参考になります」(佐藤シェフ)

   生の食材を焼き、焼いたものを煮込み、煮込んだものをオーブンで焼く……、というように、調理したものへさらに手を加えることもある。

   この日のメニューは、魚介のアラで出汁を取って生パスタを浮かべた「マルタリアーティ入 魚介のアラのズッパ(スープ)」、バケットを削ったパン粉と切り落とし肉を使った「色々なお肉の切れ端の一口カツレツ」、手打ちパスタで余った卵白と野菜で作った「卵白のフリッタータ」などが出された。とてもまかない料理とは思えないものばかりだ。

   今でこそ総料理長として若手を指導する佐藤シェフだが、イタリアで修業していた若いころには失敗もあった。従業員35人分のまかないを任されたとき「サラダのドレッシングがおいしくない」と言われて、とても悔しい思いをしたという。

好評ならお客さま用メニューに発展するチャンスも

仕事への熱意を語るシェフの話に引き込まれる参加者たち
仕事への熱意を語るシェフの話に引き込まれる参加者たち

   その経験以来、まかない料理といえども隅々まで気を抜かず、中途半端なものを出さないこと、まずい理由を聞いたらすぐに作り直してみること、先輩のまかないを真似てみることなどを強く心がけるようになったという。

   スタッフは全員「食のプロ」だからこそ、忌憚のない意見を聞くことができる。料理人にとって欠かせない実践と勉強の機会だ。

「一緒に働くスタッフからも『これはおいしい』『いいアイデアだ』と言ってもらうことが、働くモチベーションを高めてくれるのです」(佐藤シェフ)

   作ったまかないが人気を得て定番化すると、お客さま用のメニューに発展することもある。試行錯誤の結果が新メニューとしてお店で出されるのは、料理人として大きな喜びとなるだろう。まかない料理は、飛躍へのチャンスでもあるのだ。

   ツアーには、定員10人に対し2890人もの応募があった。運よく当選した女性たちから「おいしいわ」と声があがるたび、佐藤シェフは嬉しそうな顔をしていた。自分の仕事に対して感謝されるとき、働き手は大きな喜びを感じられる。これも厳しい修業の成果だ。

   仕事にはお客さまだけでなく、同僚や取引先がつきものだ。そういう人たちの厳しい目にさらされながら失敗したり成功したりすることで、人は成長して実力をつけていく。そして、先輩たちから学んだことを後輩たちに伝えていくのだ。まかない料理の向こうに、そんな人のつながりを見た気がした。(池田園子

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