横領の3大動機――「遊ぶカネ欲しさ」「大切な人のために」「会社に恨み」

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   今回から「人はなぜ不正をしてしまうのか」、そのメカニズムについてしばらく考えてみたい。その参考となるのが、米国の犯罪学者クレッシーが提唱した「不正のトライアングル」というフレームワークだ。

   「横領は犯罪だ」といくら声高に叫んでも、毎週のように事件は起きる。「人は誰でも、一定の条件が揃えば横領をしてしまう弱い存在である」という現実を認め、不正リスクを具体的に潰していくしかない。

株やFXに手を出して追い詰められるケースも

分不相応な贅沢をしたがる人に会社のカネは管理させられない
分不相応な贅沢をしたがる人に会社のカネは管理させられない

   「人が横領をしやすくなる一定の条件」を「動機」「機会」「正当化」という3つの心理的要素で整理したのが「不正のトライアングル」である。

<横領の「動機」>
「人には言えない」何らかの事情で、カネを調達しなければならない問題を抱え込む
<横領の「機会」>
「上司や同僚に見つからずに、会社や顧客のカネを使って問題を解決できる」と認識する
<横領の「正当化」>
「これは横領ではない。こうするより仕方がない」などと言い訳して自分を欺く

   これらがある人の心の中に同時に生じたときに、その人が横領をするリスクは格段に高まるというわけだ。3つは、現実には相互に絡み合っていることが多いが、それぞれの要素に分解することで不正が起こる要因と対策が検討しやすくなる。

   横領犯の「動機」の多くは、当然ながら「カネの悩みを解決したかったから」というものだ。カネに困るきっかけの王道はやはりギャンブル・遊興費などの「遊ぶカネ欲しさ」「私利私欲」である。

<「私利私欲」のために横領するパターン>
ギャンブル、風俗、分不相応な贅沢(趣味、飲食、旅行、高級外車・住宅・家具の購入など)、ハイリスクな投資、買い物依存症 等

   具体的には、遊ぶカネ欲しさに借金を重ね、その返済に追い込まれて横領に至る場合が多い。返済のため一発逆転をねらって株式投資やFXに手を出し、さらに損失を膨らませて横領するケースもある。

「家族のため」の不正は結局家族を不幸にする

   私生活も絡んで生じる「カネが欲しい」という欲求を、会社が抑え込む方法はない。採用面接で見破るのも難しいし、従業員のプライベートな時間を完全に把握することもできない。ただし、カネに関わる仕事をさせている従業員の服装や言動に怪しい予兆が見えたときには、注意してチェックするといった対策は可能だ。

   また、最近増えているのは、遊ぶカネ欲しさではなく「生活費に困って」横領するケースである。給料やボーナスがカットされたり、家族の大病などで急な出費が増えたり、リストラに遭ってしまったために、住宅ローンの返済に困り、不正に手を染めるパターンである。

「もし自分がやらなければ、愛する家族が住む場所を奪われる」

という切迫感は、横領の動機になると同時に「大切な人を守るためには仕方がない」という正当化にも結びつく。家族思いの心や責任感が追いつめた行為ということになるだろう。

   しかし残念ながら、どんな理由があろうとも、横領が犯罪であることは変わりがない。むしろ、それが原因で離婚や親族の破産にまで至ることもありうる。

米国で解雇後に執務室に戻らせない理由

   給与カットなど処遇への不満感そのものが、がんばっている自分を不当に扱う会社への復讐心という形で動機を誘発することもある。このパターンの特徴は、カネに困ったきっかけが自分ではなく、会社側にあると決めつけることである。

   したがって、横領の「正当化」も容易にされやすい。自分の懐に入れるカネは、そもそも自分がもらうべきもので、会社から借りを返してもらうと考えるのだ。

   給与カットやリストラ以外にも、自分の仕事ぶりに対する上司の評価を不当と感じたり、その結果としての昇給や昇進といった処遇に対する不満が募ると、「仕返しをしてやる」という不正の動機が生じやすくなる。

   会社としては「会社に対する恨みが不正の動機にもなり得る」と自覚して、従業員のフラストレーションを高めない工夫をするとともに、万一の「仕返し」を想定した対策が必要かもしれない。米国では会議室に呼んで解雇を言い渡した後、執務室に戻れなくするが、これは腹いせの不正を予防するためでもある。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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