2024年 4月 25日 (木)

部下が接待費で合コンしていた! 横領で懲戒解雇できるか

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   取引先との接待をうまく取りしきるのは、簡単なことではない。相手の好みを押さえておく必要があるし、参加者や店との連絡も怠れない。失敗したときのガッカリ感も大きい。仕事の中でもかなり難易度の高いものではないだろうか。

   ある会社では、若手営業マンが取引先に合コンの設定を頼まれ、首尾よく実行したところ、上司から「合コンを接待費で処理するなんてふざけている」と叱責されたようだ。上司は「経費の私的流用は横領で懲戒処分」と息巻いている。

部下は反発「プライベートの要素は全くありません」

――商社の人事です。営業部長から、部下のA君について相談がありました。ある取引先との雑談をきっかけに、A君が接待交際費で合コンをしていることが分かったそうです。

   A君が使ったのは、いちおうその取引先に使用可能とされる予算内ではありますが、部長に書類を出すときには、単に「○○社××様との打ち合わせ、懇親」としか書かれていませんでした。ここが部長の癇に障ったようです。

   そこで部長がAさんを呼んで話を聞いたところ、逆にこう開き直られたのだそうです。

「確かに知人女性に頼んで、合コンを設定しました。でも、それは××さんに強く頼まれたからです。普通の接待と何が変わるのでしょうか。プライベートの要素は全くありませんし、これも営業活動の一環じゃないですか」

   この反論に部長は激怒し、A君を叱責したようです。「営業活動の一環と言うが、それでどれだけ成績が上がってるんだ? 目に見える結果につながっていないのに、そんな遊びで会社のカネを使わせられるか!」

   部長の怒りは収まりません。人事に来て「経費の不正流用は、会社の財産に損害を与えた罪で当然懲戒処分だ。カネを返させて解雇してくれ」と言いに来たというわけです。

   確かに、会社全体として経費抑制を進めている一方で、湯水のような使い方をされればたまったものではありません。他の部署からも不満が出ているようですし、A君はきちんと処分しようと思いますが、どの程度まで可能なものでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
許容範囲をあらかじめ明確にしておかなかった部長も悪い

   部長の話だけでは、A君が本当に私的な飲食をしたかどうか分かりません。取引先の要望に応じたわけですし、キャバクラ接待する会社と比べれば、素人女性との合コンは安あがりではないですか。あらかじめ「どの用途まで接待として認めるか」という許容範囲を事前に明確化するか、事前承認制としていなかったわけですから、A君よりも部長にミスがあったということもできるでしょう。いずれにしても今回のケース程度では懲戒処分にはできないと思います。

   なお、もしも私的な飲食にもかかわらず、目的を偽って会社に申請して費用を処理したならば、横領や詐欺に該当するおそれがあります。金額が大きな場合や悪質な場合には懲戒解雇とすることもできます。ただし取引先も参加している今回のケース程度では、そこまでの処分は下せないでしょう。どうしても仕事と認めにくい部分があれば、そこだけ返金させて、譴責処分で始末書提出というあたりが適切ではないかと思います。

臨床心理士・尾崎健一の視点
理不尽な叱責は「パワハラ」と言われるかも

   気になるのは、A君への部長の叱責の仕方です。ルールが不明確のまま、部長の「常識」の範囲で評価が変わるようでは、部下は安心して仕事ができません。接待が「営業活動の一環」というのは考え方として間違っていないでしょうが、販売費のように売上や利益に直結したことが明確になるものではないでしょう。会社によって異なるとは思いますが、接待費とは一定の取引があったり、それが将来見込まれたりする相手に対して、上限を決めて固定費的にかかるものと考えるところもあり、A君もそう捉えていたのではないでしょうか。

   今回の部長のような叱責は売り言葉に買い言葉だったのだと思いますが、このようなA君の視点からすると理不尽と受け取られる可能性があり、交際費の使い方に対する注意のしかたとしては配慮に欠ける気がします。A君としてもかなり気分がよくないと思いますし、パワハラと告発されるおそれがあると思いました。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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