裁判所から「給与差し押さえ」 そんな社員はウチにはいらん!

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   採用時の書類や試験、面接だけでは、その人の生活態度まで完全に見抜くことは難しい。もし私生活が乱れに乱れていたとしても、表向きはそれなりに仕事をしていれば、会社は社員を解雇できないのだろうか。

   ある会社では、裁判所から「給与差押」の通知が届いたことから、社員が借金まみれだったことが発覚した。社長は「解雇しろ」と激怒し、同僚たちも「会社にはいられないよな」と噂するが、人事担当者は本当に解雇できるのか不安があるという。

ギャンブル、風俗にはまり消費者金融から借りまくり

――機械商社の人事です。裁判所から会社宛に「給与差押」の通知が郵便で送られてきて、大変驚いています。

   差し押さえられる社員は、入社5年目の30代男性Aさん。仕事では特に目立たず、大きな問題を起こすような人ではないと思っていたのですが、プライベートではかなり乱れた生活を送っていたようです。

   本人を呼び出して聴き取りをしたところ、入社直後からパチンコや競馬などのギャンブル、キャバクラや風俗にはまっており、最初のうちは消費者金融1社から借りては返すを繰り返していたそうです。

   それが1年ほど前から、借り入れが1社では足りなくなり、複数の会社から借りて自転車操業になっていたことが分かりました。そこで社長に報告したところ、

「まったく怪しからん。そんなだらしない生活を送っていたとは情けない…。我が社の面汚しだ。そんな社員はウチにはいらん。解雇でも何でもいいから、とにかくやめてもらってくれ!」

と一喝されてしまいました。

   他の社員も「ヤクザからお金を借りて追い込まれてたみたいね」「自己破産するのかな、会社にはいられないよな」と噂になっています。こういうときは会社の社会的評価を下げる行為をしたとして、懲戒解雇にしてよいものでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
会社に実害与えていないので解雇までは難しい

   給与差押とは、金融業者が債権を回収するため、裁判所に申し立てる法的手続きのひとつです。裁判所から差押命令が来た場合、会社は給与から差押額を引いて債権者に支払わなければなりません。なお、給与の全額を差し押さえることはできず、給与から所得税、住民税、社会保険料等を控除した残額の4分の1しか差押ができません。

   金銭絡みの解雇は、会社の金を横領した場合には即解雇できる可能性が高いですが、プライベートの金銭問題で懲戒解雇することは難しいです。なぜなら、会社に実害を与えていないからです。ただし、金銭を扱わない部署に異動させることは可能ですし、そうしておいた方がお互いのためにもいいと思います。トラブル回避のために社員間の金銭貸し借りをしないよう、あらためて社員に通知することも考えられます。このルールを破った場合には、社内規則で処分することができます。

臨床心理士・尾崎健一の視点
放置すれば自殺や横領など別の問題に発展するおそれも

   確かにプライベートの問題ですし、法的には会社とは関係ないのですが、会社として借金に苦しんでいる社員を突き放したり、放置したりすべきではないと思います。悩みが高じて横領や窃盗を引き起こす動機にもなりえますし、自殺や殺人といった事件に発展する可能性もあります。現状を把握するために人事はAさんに聴き取りをし、適宜相談に乗ってあげた方がよいと思います。相手が会社とはいえ、悩みを打ち明けられる人の存在は不安低減に役立ちます。

   大切なことは、ひとりで悩みを抱え込まず、社会的な支援もあることを伝えることです。相談に乗る担当者が気をつけるべきなのは、会社として出来ることと出来ないことを明確にしながら情報提供することです。同情するあまり、個人的な借金を引き受けてしまわないようにしましょう。社内貸付制度があれば活用を勧めたり、地方自治体の窓口に借金返済の方法について相談したりすることなどが考えられます。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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