2024年 4月 18日 (木)

不祥事対策の難しさ 「管理強化」がさらなる不祥事を生む皮肉

   5月16日のNHK「クローズアップ現代」で、警察官の不祥事が取り上げられていた。番組では大阪府警の警察学校の教官が、新人警察官に厳しい言葉を連発するシーンも映し出されていた。

「常に正しくあれ。自分が正しくなかったら人を正せない」
「おまえらはもう休日も祝日も、ずっと警察官なんだぞ」

   市民の安全を守る公務員として、自覚や規律を高めることは重要だ。非番で起こした問題でも、大きく報じられることも知っておく必要がある。しかし「常に正しく」という言葉が過剰なプレッシャーになり、かえって不祥事のリスクを高めることにも注意すべきだ。

管理業務で忙殺され、うっかり証拠を紛失するケースも

ほとんどの警察官は真面目に職務を遂行していると思われるのだが
ほとんどの警察官は真面目に職務を遂行していると思われるのだが

   証拠ねつ造で有罪判決を受けた元警部(55)が、インタビューに答えていた。自分が管理していた証拠(タバコの吸い殻)の紛失に気づいたが、上司に報告すると仕事が回らなくなると考え、他の吸い殻を忍ばせた。

「このタバコがあればすべてがうまくいく」

   背景には、不祥事予防の「改革」が逆効果になった側面がありそうだ。現場の管理職に管理強化が求められ、書類のチェックや署長・副署長への報告などに忙殺されるようになり、その挙句に、証拠紛失の隠ぺいという不祥事を起こすという皮肉な状況が浮かび上がる。

   番組放映後も、警察官による不祥事が相次いで報道され、さらに重たい気分になった。

   自転車を盗んだ疑いで男を取り調べた男性警部補(57)が、男がホームレスだったにもかかわらず「都営住宅に住んでいる」とする虚偽の捜査報告書を作成。多忙な中で男の供述のままに調書を作成し、「身元確認が不十分だったことを上司に怒られ」ないように偽装工作を思いついた。

   別の男性巡査長(35)は約6年半にわたり、23事件の被害届や調書など137点を処理せずに自宅や職場の机に隠していた。調べに対し「書類作成が遅くなり、周囲の目が気になり隠してしまった」と説明したという。

「ミスはあってはならない」と言い放つだけでは逆効果

   これらの不正行為に共通しているのは、自分のミスを周囲に知られてはまずいという強いプレッシャーが背景にあることだ。

   警察官も人の子。誰でもミスをする可能性はある。しかし、ミスをした者が「警察官は常に正しくなくてはならない」という意識にとらわれてしまうと、「ミスなどあってはならない」「上司にばれたら大変だ」と思い詰めて、かえって隠ぺいや改ざんなどの不正行為に及びやすくなってしまう。

   不正のトライアングルにあてはめると、ミスをした者が「誰にも言えずに抱え込み」「ミスをうまくごまかせる機会があると考え」「ごまかしても問題ないと正当化する」と、隠ぺいやねつ造などを犯しやすくなる。

   警察の「改革」は、管理強化によって「ミスをごまかす機会をなくす」ことに集中しすぎた結果、逆にチェックを形がい化させ、ミスを抱え込ませやすい環境をつくるという悪循環に陥ってしまったのではないだろうか。

   もちろん、「だから管理を緩めろ」ということではない。現場の上司は「ミスをしないように気をつけろ」と引き締めつつ、「それでもミスをしてしまったら、隠さずにすぐ上司に報告してほしい」「あとは上司が責任をもつ」「隠ぺいは絶対に許さない」と部下に伝えて、組織内に健全な緊張感を高めることが大切だ。

   甘やかすのでもなく委縮させるのでもない。信頼をしつつも任せきりにはしない。そのさじ加減をどう付けられるかが、管理職の力量を示すバロメーターとなる。警察の上層部は「管理強化の弊害」に十分留意し、職員一人ひとりを強さも弱さも持った個性ある人間として育成してもらいたい。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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