2024年 4月 24日 (水)

若手のプロジェクトチームが思わぬ暴走! 「給料あげろ」「残業やめろ」

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   会社に変革を起こせ、と呼びかける経営者は多いが、現状の体制内にいる人にとって本当の変化は往々にして耐え難いものだ。自己否定につながる変化を覚悟しない人が、軽々しく「変革」と言わない方がよい。

   ある会社では、社内の問題点を指摘させる若手プロジェクトを立ち上げ、自由に運営させていたところ、想定外の範囲に検討テーマを広げ、労働者の権利拡張を求める内容のレポートを出してきた。担当者はどう扱ってよいものか頭を悩ましている。

人事部長「それは会社の方針で決めることだ」

――製造業の人事です。将来の管理職候補の育成と見定めのために、先期から若手社員を集めたプロジェクトチームを発足させました。

   メンバーは入社3年目から5年目の社員10人ほどで、テーマは「社内の問題点の発見と解決策の提案」。運営は基本的にメンバーに任せて自由に議論し、議事録のみ人事部に提出させています。

   半年ほどして「工場の作業の無駄を省く」をテーマにプレゼンを実施し、社長がその案を了承して実行に移したところ、確かに作業効率を改善することができました。

   それに気をよくした彼らは、以前にもまして活動を活発化させていますが、先日提出した議事録には「労働条件の改善要求書」が添えられており、こんな項目が並んでいました。

・従業員のモチベーションを高めるために基本給を上げる
・ワークライフバランスの観点から残業は極力しないようにする
・本人の希望を十分反映した配置転換を行う

   これを見た人事部長は、プロジェクトのリーダー格のAさんを呼び出し「こんなことは君たちが要求することじゃないだろう。会社の方針で決めることじゃないか」と苦言を呈しました。

   するとAさんは「これは会社を良くするために提案したことです。そのように言われるのであれば私たちにも考えがあります」と部屋を出て行ってしまったそうです。何か不穏な感じですが、こういうときはどう対応したらいいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「改善要求書」を精査し早いうちに意見交換すべき

   企業側のリスクを考えると、彼らが労働組合化することを警戒すべきです。2人以上いれば新しい労組を作ることができますが、いちど結成されれば会社は申し出のあった団体交渉を拒否することができなくなります。労組結成は憲法で保障された権利ですので悪いことではありませんが、会社との対立を目的化したような活動に発展すると、円滑な事業推進が妨げられるおそれがあります。

   まずは提出された「改善要求書」を突っぱねたり批判したりするのではなく、内容を精査したうえで彼らと早いうちに意見交換の場を設けることをおすすめします。おそらく彼らの提案はそれなりに筋の通ったものが多いはずです。しかし全員の基本給をあげろといっても原資に限界があるので容易にはできないでしょうし、配置転換も本人の希望を聞きつつ最終的には会社が決定することが認められています。非建設的な会社批判に発展する場合には、社内秩序を乱しているとして譴責処分などを下すことができます。

臨床心理士・尾崎健一の視点
直ちに受け入れられない場合にはその理由を説明すべき

   会社から「自由にやれ」というあいまいな指示のもとで仕事をさせられ、後から「それはやりすぎ」と叱られてはかないません。一生懸命に汗をかき知恵を絞ってきたものとして、モチベーションを下げるばかりか強い反発心も湧きます。プロジェクトを任せる立場の人は、どんな検討結果が出るのかあらかじめ想定し、それをどの程度許容するのか決めておく必要があったと思います。

   今回は人事としてそのようなマネジメントが不十分であったことを認め、今後はどのような範囲で検討してもらうか、あらためてテーマの線引きを見直した方がよいでしょう。若手の柔軟な発想力を期待するならば、「大きな変化」や「想定外」を受け止める会社の度量も必要になります。現実的に直ちに受け入れられないアイディアが出された場合には、その理由をきちんと回答する場が必要でしょう。これを適当に放置しておくと無力感が定着してしまい、今後の組織運営にとってマイナスになると思います。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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