2024年 4月 30日 (火)

結婚後に強制的な「異動命令」 セクハラにならないのか?

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   「マイホームを買うと転勤させられる」――。そんな慣行が残っている企業が、まだ存在するようだ。巨額な住宅ローンを組んでしまった社員は、よほどのことをしても退職しないだろうと、会社に足下を見られているのである。

   ある会社には「同じ部署で社内結婚したら奥さんが異動」という慣例があり、支店長がそれに沿った異動命令を出したところ、女性社員から「これはセクハラだ」とクレームを受けたと頭を抱えている。

「結婚退職が当たり前」より随分進んだと思うが

――金融機関の支店長です。行内の同じ部署内のA君とBさんが結婚し、新婚旅行明けで出勤してきました。そこでBさんに異動命令を出したところ、相談があるということで会議室に呼ばれました。

「なんで私が異動なんですか? ちゃんとした理由を説明してください!」

   当行では同じ職場で結婚した場合、女性には異動してもらうのが通例です。私のころは、女性は結婚退職するのが当たり前でしたので、そこからすると随分進んだものだと考えていたのですが…。

   これまで同じような異動命令でクレームを受けたことがありませんし、A君とBさんにも以前から打診していたことです。そこで、これは行内の通例だというと、Bさんは、

「結婚や女性が理由の異動なら、これはセクハラに当たると思います。業務上正当な理由がなければ、異動には応じられませんから!」

と反論してきます。

   とりあえず、行内には書類などのダブルチェックの業務があり、それを同じ部署内の夫婦にやらせるのは不正防止の視点で問題になる、などの理由付けはできる気がします。

   しかしこれまで「セクハラ」という視点はなかったので、そういう問題が起こりうるのかどうか。Bさんと再度面談する前に教えていただきたいと思います――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「異動するのは女性だけ」という慣例は危ない

   結論としては、結婚を理由とした異動は直ちにセクハラかどうかは判断することは難しそうです。厚生労働省のセクハラ定義に該当するものが見当たりませんし、明確な判例も出ていません。念のため東京労働局に確認してみましたが、必ずしもセクハラに該当するとは限らないという回答でした。個別のケースについてセクハラかどうか判断したい場合には、裁判に委ねるしかありません。

   ただ、銀行のように厳しい内部統制が要求される職場の場合、支店長が懸念しているように夫婦などの身内にダブルチェックを委ねることは、できれば避けたいことではないでしょうか。その点では異動に一定の合理性があります。ただ、そのような業務上の要請がなく、かつ「異動するのは女性だけ」という慣例がある場合には、結婚や出産により職場において不利益な扱いをしてはならないという基本的な考え方に抵触しますので、女性を理由とした嫌がらせという指摘を受ける可能性はありそうです。

臨床心理士・尾崎健一の視点
同じ部署だと有給休暇を一緒に取得しにくくなるのでは

   本人の立場からみれば、「職場結婚後は女性が異動」という暗黙のルールだけで本人が望まない異動を強制するのは、女性を理由に仕事をしにくい状況にさせる環境型セクハラに当たるのではないでしょうか。このような理不尽な慣行が続けば、自分のキャリアが制限されるのを嫌がって結婚を躊躇する人が出てくるかもしれません。

   その一方で、夫婦が同じ職場で働くことについて内部統制以外にも問題がないか、いまいちど行内で見直しを行ってはどうでしょうか。家庭内のインフルエンザ感染で同時に休んでしまうリスクであるとか、家庭内の旅行などで有給休暇を一緒に取得しにくくなるとか。人数の少ない部署では、同僚が一緒に働きにくいという問題もあるかもしれません。業務上の合理性があれば、「結婚後はいずれかに異動命令を出すことがある」旨を就業規則に明記し、場合によっては男性も異動するようにすればセクハラの問題はなくなると思います。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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