2024年 4月 20日 (土)

なぜブラック企業なのに辞めないのか?(上) だってやりがいを感じているから

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   謹んで新年のお慶びを申し上げる。

   当社「VIEBEATA」(ヴィベアータ)はヤフーやグーグルで社名検索すると、関連キーワードに必ず「ブラック」とか「2ch」が表示される超絶「ブラック企業」だ。2013年の年末休暇は12月26日夕方から29日までで終了し、30日から通常営業である。どうだ!ブラックだろう!

   昨年は大いに注目された「ブラック企業」だが、まだまだブラック企業問題は誤解が多くまかり通っている。労働時間が長ければ即ブラックなのか?離職率が高ければ、低賃金なら、イコールブラックなのか?そうではあるまい。

実態は「残業代未払い企業」であり、「不当解雇企業」…

夜中2時まで仕事、それがどうした…!?
夜中2時まで仕事、それがどうした…!?

   何度も言うが、ブラック企業という言葉の存在自体がブラック企業問題の解決を遠ざけている。存在しているのは「ブラック企業」ではなく、「残業代未払い企業」であり、「不当解雇企業」であり、「採用広告虚偽記載企業」なのだ。このように個別具体的な問題を採り上げ、解決のために論じていかねばならない。

   同時に、私自身もまた誤解されているようだ。私は単にブラックとされる企業を叩いて喜んでいるのではなく、「就職における不幸なミスマッチ」を撲滅するために、「ブラック企業」という切り口から「働くとは、仕事とは」について語っているのだ。

   世間から「ブラック」と呼ばれる会社なのに、ハッピーに働いている人がいる。

   一方で、世間から「大手」「優良」「人気」「難関」「一流」と呼ばれる会社にいるのに、辛そうにしている人がいる。私自身、これまで延べ2万人以上の方々と面談する中で、両方のパターンを目の当たりにしてきた。

   同じ会社で同じ仕事をしていても、ある人は「最高に楽しい!」といい、ある人は「こんなブラック企業、もう辞めてやる!」と言う。それを「いい」とか「よくない」と感じる、自分自身の「価値観」次第なのである。

   ぜひ、本連載をお読み頂いた多くの人に、「自分にとって『いい会社』とは何か?」「自分にとっての『いい仕事』とは何か?」と考えて頂きたい。私は「ブラック企業」というキーワードから、そのキッカケを提供したいと考えているのだ。

繁忙期は朝6時から夜中2時くらいまでの勤務

   今回と次回は、私自身のブラック企業勤務経験と、私がこれまで相談に乗らせて頂いたブラック企業勤務者のお話から、「なぜブラック企業にいるのに辞めないのか?」というテーマを掘り下げて考察していきたい。

   パターン(1)ブラック企業勤務にやりがい、意義を感じている

   私が大学卒業後、最初に勤めた会社はもう存在しない。さまざまな経緯があり、同社は2008年に廃業した。2009年に上場廃止、そして同年12月31日に解散している。

   ただ実質的な事業そのものは、商号を変更しながら現在も継続している。ちなみに最新版の「ブラック企業ランキング」では、旧社名の名義で、堂々の偏差値「75」に位置している。これは「ブラック企業の代名詞」、モンテローザやワタミ、光通信などと同ランクという輝かしい(?)ポジションである。

   さて、同社の何がそこまでブラックと認知されているのか。恐らく、次のような点からであろう。

●ハードワークで低賃金

   繁忙期は朝6時から夜中2時くらいまでの勤務。帰れないのでオフィスで寝袋生活。しかも残業代やもろもろの手当は存在しなかった。

●グレーな「給与天引」問題

   その会社のメイン事業はいわゆる「日雇い派遣」であったが、派遣スタッフへの給与から「データ装備費」という名目で不明瞭な天引きをおこなっており、後に社会問題に発展。業界全体の慣行としておこなわれていたことだったが、同社が大手であったことから批判の的になった。

●「二重派遣」問題

   派遣労働者が、派遣先からさらに別の企業に派遣される「二重派遣」は職業安定法や労働基準法で禁止されている違法行為。同社はこの事件発覚で逮捕者を出し、法人としても書類送検され、罰金刑を命じられた(これにより、会社の事業許可が取り消されることがほぼ確実となったため、2008年に全ての事業が廃止となった)。

   ハードワークの割に低賃金で、明らかな違法行為をおこなっていたわけであるから、私の基準から考えても同社はブラック企業だったといえる。

「価値観との合致」が大きなモチベーション保持要素に

   しかし、会社の私に対する扱いや待遇、労働環境などについて不満を持っていたか?と問われれば、私は明らかにNOと言う。

   客観的に見れば明らかに劣悪な環境だったし、労働時間の割には低賃金だったのだが、私は同社で得たいことが得られた。不満を感じるどころか、私を育ててくれた会社として大いに感謝し、満足しているのだ。

   私が1999年に新卒第一期として入社した当時、同社は急成長しており、創業4年目にして株式上場を成し遂げようかというタイミングであった。実際に上場し、短期間で業界トップ企業になり、最盛期には全国で1100もの営業拠点を展開していた。

   同社の経営理念は「弛まぬベンチャースピリット」であり、社員に対しては自律的かつスピード感のある成長を要求していた。そして、ハードワークにはわかりやすく「昇進」と「お金」で報いようとする会社であった。

   実際、入社から半年程度で支店長を任されるような例は多くあった。また支店長の上位である「統括部長」クラスになると、管轄している各支店の営業利益に準じたボーナスを得ることができ、そのボーナスだけで年間1000万円超の金額を得る人もいた。もちろん学歴や入社年次などはまったく関係なく、成果を残す人間が出世していった。野心あるビジネスパーソンには理想的な環境であったと言えよう。

   元々私は「将来起業する! そのためには短期間で重責を任されて成長できる環境がいい!!」という決意で就活をしており、同社の環境は希望に合致していた。実際、入社早々に事業企画部門に配属され、組織図的にも物理的にも経営陣に近い立場で、多くの貴重な経験を得ることができた。

   繁忙期は1日20時間労働、週休もロクにとれず、残業代は給料込で、初任給は17万円くらいであったが、私にとっては個別の労働条件よりも「価値観との合致」が大きなモチベーション保持要素であったため、何ら不満はなかった。職位と給与は連動しており、3か月に1度見直しが入る。お蔭様で私は入社後ずっと昇給することができ、2年目にはその基本給が倍になっていた。

「学園祭」のノリ

   おそらくそのような思いは、覚悟を決めて同社に入った他の社員も同様であったはずだ。目前の仕事のキツさにはたまにグチを言う者もいたが、皆会社のミッションやビジョンを理解しており、高く遠い目標を共有して努力を惜しまなかった。その土台としては先述の「フェア」な評価や、着実に会社自体が成長しているという達成感もあったことだろう。確かに設定される目標は厳しい水準のものだったが達成できていたし(あれだけのハードワークを全員でやればそれは達成するはずだが…)、カリスマ会長が約束した売上規模や新サービスなどは全て言葉通りに実現していくので、信頼感と一体感があったことと思われる。

   このように「ブラック企業勤務を愉しんでいた」なんて想像もつかない人にとっては、「学園祭」をイメージして頂くとよかろう。

   たとえ準備が徹夜になろうとも、皆で一体となって取り組んだ昂揚感、当日盛況だったときの達成感、無事終了して打上げをするときの盛り上がり…など、辛さよりも愉しみを感じることのほうが多かったはずだ。

   世間がブラック企業と揶揄しようとも、自らの価値観に合致した組織での勤務は、毎日が学園祭みたいなものだ。そこには決して「やらされ感」は存在しない。全員が同じ目標に向けて力を尽くし、段階的に目標が達成でき、やりがいを感じられることになる。結局は自身の価値観、そして何にモチベートされるかの違いだけだ。

   違法行為を野放しにしているブラック企業であっても、個々人の価値観に合致しているなら、その人にとってその会社はブラックではない。このように、「その会社や事業、経営者などに共感し、意義を感じている人が存在する」ということが、ブラック企業でも人が集まり、その会社が生きながらえている理由のひとつだ。

   とはいえ、これはまだハッピーなケースだ。世の中には、そんなやりがいなど微塵も感じられない劣悪ブラック企業が多数存在する。しかし、存在しているということは、そこで日々働いている社員がいるということだ。では彼らこそ、なぜ辞めないのか?

   その答えはまた次回以降で詳しく考察していきたい。

   これからも引き続き、悪徳ブラック企業を血祭りにあげつつ、このようにブラック企業問題を本質から論じ、働き甲斐を感じられる社会、地道に働く人が報われる社会を実現すべく奔走していく所存である。(新田龍)

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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