2024年 4月 17日 (水)

「資格取得のプレッシャーでうつに」 推進していた会社の責任といわれても…

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   1月(2014年)は、年初ということもあってか、「今年こそは、○○の資格(取得)に挑戦する」といった意気込みを示すインターネット上の書き込みが、あちこちで見られた。会社でも、業務に必要な資格を取ることを奨励し、受講費用などを社員に援助するところは珍しくない。

   あくまで「本人の自由」という設定だが、資格の保持が昇進の条件などになっていると、なかには「会社からのプレッシャー」を強く感じ、さらには心身の調子を崩す社員も出てくるようだ。もし、こうした社員の口から「会社の責任」を問う言葉が出てきた場合、どう考えればよいのか。

「労災申請をしたいので資料提出の協力を」

   金融業界で人事労務を担当している者です。弊社では、証券外務員や保険に関わる資格はもちろんのこと、銀行業務検定、簿記、FP、宅建など金融に関して取得しておいたほうが有利な資格取得を積極的に推進しています。

   昇進の条件になっている資格もあり、通信講座など一定の範囲で取得にかかる費用は会社で負担しています。

   先日、うつ病で休職を申請してきたAさんが人事に対して、労災申請への協力を求めてきました。

   私達の認識では、残業時間も厳密に管理していますし、原因についての現場からの聞き取りでもAさんの休職に関しても業務起因性はないものと思っていました。

   しかし、Aさんは、

「年内に銀行業務検定に合格しなければ昇進できないことがプレッシャーになり、夜遅くまで勉強していたのです。会社の推進を受け、会社の仕事に使う資格を会社のお金で勉強していたのですから、業務起因と言えるのではないでしょうか。労災申請をしたいので、資料や勤務データ提出の協力をお願いします」

と主張してきました。もちろん、正当な理由があれば労災申請に協力することはやぶさかではありません。

   しかし、資格取得を強制しているわけではなく、費用も会社の配慮で負担しているのに、会社の責任と言われるのは納得がいきません。

社会保険労務士 野崎大輔の視点
今回のケースは「(会社が)推進」であって、「強制」ではない

   労災は、仕事中に発生した怪我・病気であるかどうかという業務遂行性と、仕事が怪我・病気の原因になったかどうかという業務起因性によって判断されます。今回のケースは、会社が資格取得を推進しているだけで強制しているわけではありません。したがって相談内容だけで判断するならば、労災には該当しないと考えられます。もし資格取得が強制で業務命令と判断されたとしたら、労災に該当するおそれがあります。

   滅多にない例ですが、資格試験の受験勉強が労災と判断された判例があります。土木建設会社勤務の社員が会社から技術士試験の受験を指示され、勉強を続けていたが、試験直後に脳内出血で倒れてしまい、労災による障害補償給付の支給を求めたところ、労働基準監督署長はこれを不支給としました。この結果に対して裁判所に訴えを起こし、裁判では労基署長の不支給処分取り消しを決定したという判例です。この判例では、会社が就業時間中に論文添削や模擬面接を行う等の状況から、試験の受験は業務命令であると判断されました。今回は、会社でここまでやられている様子ではありませんが、参考にして下さい。

臨床心理士 尾崎健一の視点
判断するのは労基署。手続きの手伝いまではしても良いのでは

   「業務に役立つとして取得が勧められる資格」と「昇進の要件になっている資格」とでは、本人が受けるプレッシャーに違いがあります。「昇進にかかわる」など会社の強制力の程度によって、会社の指示であったかなかったかは判断されるべきでしょう。今後は、会社の強制力が強いものについては、資格のための勉強が就業時間外や社外であっても労働時間に換算するかどうかを議論し、社員と合意するプロセスを持つと良いのかもしれません。

   今回のケースは、うつ病の発症が取得へのプレッシャーに関係があるかどうか、および勉強のための時間が労働とみなされるかどうかが判断されることになると思います。その判断は、労基署がすることになりますので、申請の手続きの手伝いまではしても良いのではないでしょうか。

   いずれにしても、労働時間を管理することは、残業手当などの報酬という観点だけでなく、健康配慮の観点からも重要となります。更には労使の信頼関係構築と生産性低下防止のためにも、今回の件を、改めて現在の「時間管理が適正かどうか」を見直すきっかけにしましょう。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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