2024年 4月 19日 (金)

「多すぎる相談・少ない監督官」で、指導徹底はどこまで可能? ブラック企業問題、ズバリ厚労省に聞く(下)

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解雇規制やセーフティネットの問題


(質問7)労働法制が語られる中で関連して話題になるのが「解雇規制をどうするか」というテーマである。この見直しについてはどう議論されているのか?

<回答>解雇について民法では、「無期雇用契約の場合、お互いいつ辞めてもいい」、つまり、退職も解雇も自由となっている。

   しかし、これまで解雇にまつわる個別の紛争で裁判が数多おこなわれてきて、その判例に基づいた原則が今の労働契約法による解雇の規定となっている。紛争や雇用管理の実態を踏まえ、歴史の積み重ねとして裁判所が築き上げたルールを、行政側で恣意的に変えるわけにはいかないと考えている。

   ちなみに、「日本は世界的にみて解雇規制が厳しい」と言われるが、OECD諸国で比べた場合、日本は解雇規制が弱い方から10番目。アメリカより厳しく、欧州より弱い、という位置づけだ。

   またこれまでのデータを見る限り、「解雇の難易度」と「失業率」との相関関係はあまりない。他にも「景気の良し悪し」などの要因も大きく、解雇の難しさとはあまり関係ないと認識している。また、「解雇しにくいことが対日投資を阻害している」という意見もあるが、海外からの投資という観点からは、「法人税率」といった要因もあると考えている。

   一方で、裁判でどのような判断が下されるか予見しがたいという意見もあることから、「雇用条件の明確化」に取り組むこととしている。

   なお、そもそもなぜ整理解雇を厳しくしているかというと、「昇進・昇給」や「退職金」といった将来への期待を持たせる形で採用して働かせていたのに、その期待を裏切ることになるという、マネジメントとの関係がある。解雇のルールはマネジメント、働かせ方・働き方と一体マネジメントの仕組みが変わらない中では、解雇の判断だけ変わるということはないのではないか。

   労働時間や働き方に関する議論は省内でも本格化しており、「企画業務型裁量労働制の在り方」や「いわゆる正社員と非正規雇用との間になるような多様な正社員をどう普及するか」など労使や有識者を交えて話し合われている。

   これだけ多様な人が働いている中では、雇用の問題についてもいろんな意見が出てくることは、むしろおかしい話ではない。そのような意見がある中で、労使の意見をしっかり聴きながら、バランスの取れたものが出来るよう進めていきたい。


(質問8)セーフティネットが充分でないから、簡単に会社を辞められない。そういった人がブラック企業を支えている、という議論があるが、どう捉えているか?

<回答>個人的な意見ではあるが、高度成長期までは「雇用を企業が丸抱えしていて、労働組合がちゃんと経営を監視する」ところがあり、企業が負担していた雇用と保障について行政が支援していた。現在、経営環境が厳しくなって、企業側における福利厚生や雇用が厳しくなっており、ドライな世界に突入しているとも言える。

   失業者への社会保障については管轄外なので個人的な意見になるが、求職者支援制度など、支援体制については柔軟で手厚くなってきていると考えている。数年前までは、雇用保険と生活保護しかなかった。保障水準については、本人がそれまで働いた期間に合わせた形でおこなうが、再就職を支えるものであり、次に働いてもらうためのモチベーションにもならなくてはならないから、手厚すぎてはいけないという面もある。


(質問9)最後に、読者へのメッセージを

<回答>我々労働基準監督署でできることについては一生懸命やっている。何かあればぜひ気軽に相談し、活用してほしい。相談してもらうことで法律知識がある人が増えていくという効果もある。また労基法を始めとして、関係法令を守ってもらうという立場からの指導も、今後とも徹底していきたい。

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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