2024年 4月 19日 (金)

お受験の最大のメリット 「成功体験」が人を育てる

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   2月といえば受験シーズンである。というわけで、簡単に受験とキャリアの関係についてまとめておこう。受験といっても、ここでは大学入試以前、中でもいわゆる進学校と呼ばれる私立の中学・高校の受験について述べたいと思う。


   実は、筆者は20代の頃までは、わざわざ高い金を出して私立の中学や高校に子弟を進学させる都市部の家庭を、ずっとアホだと考えていた。大学入試なんて、医学部でも狙わない限り授業を真面目に受けてプラスαで塾でも通えば十分クリアできるレベルである。それを、大学入試とはまったくベクトルの異なる私立中高の入試をわざわざ受けさせた上、数年間もバカ高い学費を払うのは、筆者からすると単なる時間と金の無駄にしか見えなかったためだ。

人材は入社後に作られる


   ただ、最近では、実は"受験"そのものが非常に効果的な人材育成手段なのではないかと考えている。それによって何が得られるのかというと、一言でいえば"成功体験"だ。ここで重要なのは、それは"成功"ではなく、あくまでも仮想の"成功体験"であるという点だ。


   本当の成功なんて人生何十年もかけて作り上げるもので、たかが中学や高校の受験で決まるものではないのは当たり前の話。でも、お手軽な"体験"であるからこそ、受験はそうした気分の一端を10代のうちに与えてくれるわけだ。これはその後のモチベーションを維持する上で決定的に重要で、逆にそこで"失敗体験"をした人間は(少なくとも進学や勉強という方向には)なかなか前向きにはなれないものだ。


   昨(2013)年出版され大きな話題となった関東連合元幹部の著書『いびつな絆』は、この点について非常に興味深い事実を述べている。六本木フラワー殺人事件や海老蔵暴行事件等で悪名をとどろかせた関東連合だが、実は主要メンバーのほとんどは杉並や世田谷の中流以上の家庭出身であり、家族環境もごく平均的なものだという。そんなごく普通の(どちらかというと恵まれてさえいる)彼らがつるむようになったきっかけは「中学受験をしなかったから」という指摘は示唆に富むものだ。


   同じ現象は企業現場でも見られる。ある程度経験のある人事の間では、よくこんな格言めいたことが言われる。


「人材は入社後に作られる」

   入社時の評価がいくら高くてもものにならない人もいれば、誰も印象に残っていないような人でもいつのまにか大黒柱に育っていることがあるという意味だ。

公立校の中にも私学に劣らない進学校を


   そうなる理由は簡単で、本人と相性の良い事業部に配属されるか、上司や同僚に恵まれるか、そして何よりも、評価されやすい環境にあるかといった諸々の要素で、本人のモチベーションが大きく左右されるためだ。たとえば採用時の評価が高く、若手が多く在籍する競争の激しい重要部門に配属された結果、(査定成績なんて多くの企業では相対評価の奪い合いなので)伸び悩む若手は珍しくない。労働市場の流動性が高ければその過程で転職するのだろうが、日本企業の場合はそのまま腐ることが多い。


   逆に20代が一人しかいない斜陽部門に配属された結果、コンスタントに高い評価を独占し続け、気がつけば本当に部門を支えて立つ人材に育っていたなんてケースはどこの会社にもある。キャリアにせよ教育にせよ、小さな成功体験の積み重ねが大きく影響するというのが筆者の見方だ。


   とすると、実は庶民にとっては、地方の方が教育環境は良好なのかもしれない。筆者は小学校から大学まで一度も私立に通うことなく(まあ今のところは)まっとうな社会人になれたが、これが都内だったら中学あたりでぐれていた可能性もないではない。まあ暴走族なんてめんどくさいことはやらなかったろうが、"お受験"というステージで不戦敗した経験は、何らかのネガティブな心象を与え続けたはずだ。


   そうした問題への処方箋は実にシンプルで、テスト結果の公表や学区制の緩和により公立校同士をもっと競争させて、公立校の中にも私学に劣らない進学校を作るしかない。


   学校の序列化や教育の形骸化を危惧する意見もわからないではない。でも、富裕層の子供が私学経由で一流大に進学し、そうでない家庭は早々に競争からリタイアする現状よりはよっぽど健全だろうというのが、地方の公立校出身で、多くの幹部候補エリートが組織内で腐るのを見てきた筆者の意見である。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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