2024年 4月 25日 (木)

「不祥事」再発防止策の落とし穴 「あいまいな表現」が形骸化を招く

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   前々回のコラムで取り上げた酒造メーカーにおける不祥事について、同社から調査結果を踏まえた再発防止策が公表された。

   人材の確保・育成を中心とした製造技術の向上、仕込み工程の簡素化と設備の拡充、無理のない生産計画の策定、組織内のコミュニケーション向上、チェック体制強化など、人・設備・就業環境・管理の各分野にわたって対策が立てられているという点では評価できる。

できるだけ具体的に取り決めたほうがよい

再発防止策と「あいまいな表現」の関係とは
再発防止策と「あいまいな表現」の関係とは

   しかし、問われるのはそれぞれの対策の実効性である。絵に描いた餅に終わらないよう、以下のような点に留意して地道に取り組む必要があるだろう。

   まず、再発防止策に使われがちな「あいまいな表現」が対策を形骸化させてしまわないように気をつけたい。酒造メーカーの対策では、次のような表現が気に掛かる。

「規格米と規格外米の区分管理については、日々、副工場長ならびに工場長が確認を行い、適宜、社長も確認します」

   どのような場合に社長が確認するのかをあいまいにしたままだと、副工場長や工場長が「こんなことで社長の手を煩わせないほうがいい」などと気を遣い、問題がトップに伝わらないリスクが高まる。「工場長が問題ありと判断した場合は即日社長に報告し、対応を協議する」「社長は、確認状況を四半期ごとに抜き打ちチェックする」など、できるだけ具体的に取り決めたほうがよい。

「問題点ならびに異常値が認められた場合は、副工場長および工場長に速やかに報告します」

   「速やかに」という表現も、いつまでなのかがあいまいになりがちだ。報告者のミスで問題が発生した場合や副工場長や工場長が出張や休暇で不在の場合などは、報告がズルズルと先送りされる恐れがある。報告者に迷う余地を与えないよう「異常値が認められた場合は即刻、遅くとも当日中に副工場長に報告する。副工場長が当日不在の場合には工場長に、両者不在の場合にはいずれかの緊急連絡用携帯電話に連絡する」などと極力具体的にルールを明文化しておきたい。

   「徹底的」「適切」などの表現も同様だ。簡潔で響きはいいが、何をどのように「徹底」するのか、何をもって「適切」な対応と考えるのかなどがあいまいになり、現場の判断や行動にブレが生じやすくなる。

「コンプライアンス疲れ」に要注意

   次に、再発防止のためにチェックを厳しくするのは当然だが、監視や摘発という姿勢を強めすぎて、現場を委縮させたり労使の信頼関係を損なったりしないように気をつけなければならない。

   酒造メーカーの再発防止策には、「原材料・資材」「商品表示」「品質管理」「安全衛生」に関する内部監査を新たに行うとあるが、「荒さがしばかりする」と現場から敵視されないよう、改善に向けた提言や支援をする活動にも力点を置きたい。

   また、製品への異物混入を防ぐために監視カメラの設置や持ち物検査、ボディチェックなども導入されるようだが、これらの対応も従業員との信頼関係を損なう恐れがある。導入の趣旨を経営トップが十分に説明し、納得感を高める必要がある。

   組織の風通しを良くして、現場の従業員が問題や不満を抱え込まないようにすることも再発防止には欠かせない。結局はコミュニケーションに尽きるといってもいいだろう。しかし、それは一筋縄ではいかない。

   「業績目標管理制度や自己申告制度に基づく個別面談を定期的に実施し、相談やアドバイスを行う」という対策は風通しをよくするために有効だが、面接やアドバイスをする管理職に部下の話を傾聴し部下の将来を親身になって考える姿勢が足りなければ形骸化する。管理職のコミュニケーション能力や人材評価力を養成するプログラムも、再発防止に不可欠だ。

   「内部通報制度について改めて従業員に周知する」対策も、既存の制度自体が従業員に信頼されていなければ活用は望めない。通報者は保護されるのか、報復の心配はないか、匿名でも通報できるのか、通報受付担当者は十分なトレーニングを受けているか、調査や結果のフィードバックの仕組みは整っているかなど、制度改善のポイントを一つひとつ見直す必要がある。

   最後は、経営トップが再発防止に向けて本気で取り組んでいるという姿勢が、現場の従業員一人ひとりに伝わるかどうかが鍵を握る。くれぐれも、現場にやらされ感とコンプライアンス疲れだけが残らないように注意したい。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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