御社の「意識改革」が浸透しないワケ トップの意向を「通訳」する極意

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   個人的な大先輩Fさんの勇退を記念したパーティにご招待いただき、貴重なお話をうかがうことができました。

   Fさんは都市銀行で部長職を最後に外部へ出向。有名飲食チェーンM社の役員としてカリスマ社長T氏の参謀役を長年務め、近年はその経験を活かしコンサルティング企業の顧問として個別企業へのアドバイザリーをされておられました。

毎朝始業前に唱和させよ

パーティで貴重な話を…
パーティで貴重な話を…

   Fさんの冒頭あいさつ、「長く続けてこられたのは、M社のおかげ。超ワンマンで言いたい放題のT社長と社員の間に入って、『トップの通訳』として具体策に落とし込んでいく仕事で鍛えていただきました」との話が気になり、直接詳細を聞いてみることにしました。

   「『トップの通訳』として具体策に落とし込んでいく仕事」のきっかけとなったのは、M社への来店客から「電話応対が悪い」「子供連れを迷惑そうに扱う」「何か頼むと店員が嫌そうにする」などというクレームが相次いだことでした。社長の耳に入ると、社長は全店長に「お客さま第一」への意識改革をしろと大号令を掛けたのです。社長が出した指示は、M社の経営理念にある「お客さま第一」の項目「当社は日々、お客さま第一の姿勢でゲストをお迎えします」を毎朝始業前に唱和させ全社員のアタマに徹底的に叩きこめ、というものでした。

   この時Fさんは、次のように思ったそうです。店長たちは、社長の言っていることは分かっている、しかしその効果には疑問を持っている。果たして社員が毎朝「お客さま第一」を唱和することで改善がはかれるのか、社員の入れ替わりも激しくアルバイトも多い飲食業では、一時的な効果はあってもまたも元に戻ってしまうのではないか。どの顔もそんな疑問を浮かべ社長の指示を受けている、これではうまくいかない、と。Fさんは銀行時代にも同じような経験があったので、このままでは号令倒れになると思ったのです。

クレームをひとつひとつ拾い上げて…

   Fさんが銀行で活躍した昭和末期は、経済が低成長時代に入りつつあり、それまでは法人取引中心で個人取引は軽視され敷居の高い存在だった銀行のイメージから、個人に関してもメーンバンク取引を増やして業績を伸ばしていこうという方向に転換した時代でした。その時に叫ばれたのが、M社と同じ「お客さま第一主義」というお題目だったのです。

   しかし長年染み付いていた「個人客から見て敷居が高い」という銀行文化は一筋縄ではいきません。当時本社の支店指導部門にいたFさんは、どうしたら銀行の古い体質を変えて「お客さま第一主義」を外に伝えることができるのかに、頭を悩ませていました。そんな折に、ヒントになったのがクレームセクションにたまっていた電話やハガキでのクレームの山でした。クレーム担当セクションは、クレーム先への平謝りと現場への個別注意に流される日々を漫然と送っていたのです。

   Fさんはそんな現状を見て考えました。

「顧客クレームは、現場スタッフのお客さま第一じゃない行動に対するものがほとんど。だとすればそのクレームをひとつひとつ拾い上げて、現場の問題行動を修正してそれを習慣づければ結果的に「お客さま第一主義」に近づくはず」

   Fさんはクレームの原因で多いものから拾い上げ、ごくごく簡単な「必ず笑顔で応対する」「『いらっしゃいませ、こんにちは』と明るく挨拶する」「起立および一礼してお客さまをお迎えする」などから行動ルールに落とし込んで全店にしつこく徹底させたところ、1年後にはメディアのアンケート調査で店頭サービス・ナンバーワン銀行になったのでした。

重要なのは「いかに行動で示すか」

   Fさんはその経験をM社のサービス改善に活かし、社長の言う「意識改革」をいかに具体策に落とし込んで「お客さま第一」を来店客に伝えるかを考えました。全店長からクレームの実態をつぶさにヒアリングし、「電話は必ずスリーコール以内で取る」「お子様向けサービスのご案内など、お子様連れ歓迎の姿勢を示す」「どんなオーダーも可能な限り前向きに対応することをアナウンスする」等々の具体的な行動ルールを決めて、現場の習慣づけをさせることにしたのです。

   Fさんの狙いはズバリあたりました。銀行よりも多少時間はかかりましたが、辛抱強くルールを守らせる行動指導を続けることで2~3年後には顧客満足度が非常に高い店として全国的に有名になり、同業の見学が相次ぐまでになりました。

「要するに、具体的な行動だけがお客さまに直接訴えかける方法なのだってこと。例え社長が社員の意識改革を求めていても、お客様が評価するのは行動だけですから。いかに行動で示すかなのです。この一件以来、私は何事においてもそれを心掛けてきたのです」

   社長の要望をいかに顧客の要望に「通訳」するか、それが社長参謀役の役割である―。

   Fさんが言うところの『トップの通訳』とはそういう意味であったかと、甚く納得した次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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