2019年 12月 7日 (土)

「格差」と「大クレーマー時代」の関係 「サイレント・マジョリティ」はこうして豹変した

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   私が警察を退職し、トラブルやクレームで困っている人の相談にのるようになってから20年になる。その間、社会の状況はどうなったかというと、いい方向に向かっているとは思えない。ますます悪くなっているといえる。特徴的なのは、「普通」に見える人のクレーマー化と比例するように、残忍で凶悪な事件が増えていること。今までは顧客対応をそれほど意識してこなかった業種でも、ますますきめ細かな対応が求められることと同じように、危機管理においてもいざという時の備えが必要になってきている。

   ひとつ、知っておいてほしいことがある。それは、クレーマーが社会全体に蔓延しているという現実はあるが、今、「誠意を見せろ!」と凄んでみるのは、ヤクザではない。昔、ヤクザがよくつかっていた「誠意を見せろ!」という台詞も、ヤクザの常套句のように思われているが、いまでは本物のヤクザはつかわない。なぜなら、「誠意を見せんかい!」と言った瞬間に、警察に通報されて事件になるからだ。

暴力団対策法の余波

かつて、リンゴが置かれていた理由
かつて、リンゴが置かれていた理由

   暴力団対策法が施行される前までは、警察に「民事不介入の原則」という足かせがあったことはよく知られている。すなわち、「警察は、民事の問題には直接介入できない」というもの。しかし、暴力団対策法ができてからは、相手がヤクザであれば、クレームに名を借りた金品の要求や利益誘導に対して即刻、中止命令や取り締まりができるようになった。

   かつて、暴力団事務所には、脅しの小道具として果物ナイフが用意されることがあった。その脇には、リンゴがさりげなく置かれている。つまり、果物ナイフはリンゴを切るためのものだとカモフラージュしているわけだ。

   しかし、暴力団対策法が施行されてからは、こんな小細工は通用しない。これ見よがしに果物ナイフが置かれていれば、それだけで取り締まりの対象になる。

   こうした現実から、極道の世界でも世代交代が進んでいる。いま、主導権を握っているのは、経済ヤクザや企業舎弟。この社会も「金がものをいう時代」になっている。全身に入れ墨を彫った、昔ながらのヤクザは頭の切り替えができず、廃業する者も多い。そうした敗北感を抱えた元ヤクザが、その欲求不満をクレームで爆発させることもあるから対応する側は悩ましい。

   たとえば、年老いたヤクザが、長年の不摂生がたたって腎臓を悪くするケースは少なくない。人工透析を受ける際、「切った張った」で強そうだけれど、じつは痛みにめっぽう弱く注射は苦手というタイプも。なにかの拍子で痛い思いをするとキレてしまったり、大げさにがなりたてたりして、特別扱いを要求するわけだ。

   「担当を替えろ」「あの看護師を辞めさせろ」「順番を変えろ」などと、勝手なことを言い続ける。

   このように、現役の暴力団員からの悪質クレームは激減したものの、その一方で、元ヤクザや普通の市民がヤクザ顔負けのクレーマーに育っている。ヤクザのベンツよりも、優秀な女学生や老人の軽自動車のほうが怖い――。こんなご時世なのかもしれない。

援川 聡(えんかわ・さとる)
1956年生まれ。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたプロの「特命担当」。2002年、企業などのトラブル管理・解決を支援するエンゴシステムを設立、代表取締役に就任。著書に『理不尽な人に克つ方法』(小学館)、『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。
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