2024年 4月 20日 (土)

「ブラック上司」撃退法 裁判もよいが、その前に・・・

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   2013年度に、全国の労働局や労働基準監督署に寄せられた労働相談の件数は105万42件。そのうち、事業主と労働者の間でトラブルとなり、民事上の「個別労働紛争」にあたるとされたものは24万5783件にものぼった。

   その相談内容でもっとも多かったテーマが、上司などによる「いじめ・嫌がらせ」に関するもので、2年連続トップ、しかも増加傾向にある。

なぜブラック上司が生まれてしまうのか

裁判、の前に・・・
裁判、の前に・・・

   組織に勤務している以上、多かれ少なかれ誰もが経験したことがあるかもしれないが、これまで私が相談を受けたケースではこのようなものもあった。

「作成した役員会議資料の確認を求めると、ほぼ全編にわたって書き換えられ、『ホント使えねえヤツだな』『お前みたいなヤツを給料泥棒っていうんだ』などとネチネチとイヤミを言われる。しかも、会議の席でその資料が『分かりにくい』と指摘されると、全部私のせいにされてしまった・・・」

「うっかり大量のミスコピーをしてしまったらしく、知らずに放置していたところ、経費に細かい役員に発見されてしまい、『3F南側のコピー機でミスコピーを放置した者は誰か、名乗り出なさい。5分だけ待つ』と全社同報メール(社員数約700人)が。私からのお詫びのやりとりもすべて全社に晒し上げられ、『ミスコピーの損失分は君の給与から差し引く』とまで・・・」

   少々の厳しい口調程度であれば「指導」の範囲内だろうが、あまりに度が過ぎた理不尽や仕打ちはいわゆる「パワハラ」となり、ケースによっては、刑事における「傷害罪」や「名誉棄損罪」、民事での「不法行為」になることがある。

   ではなぜブラック上司が生まれてしまうのか、またあなたが運悪くブラック上司に当たってしまった場合、どう対処すればいいのかについて見ていきたい。

「ブラック上司」が生まれる理由

   念のため最初にお伝えしておくと、単に「要求水準が厳しい」「失敗したら叱責する」「口調が上から目線」・・・といった理由で上司をブラック扱いするのはお門違いだ。然るべき理由があったうえで叱責する上司は、「上司としての仕事をきちんとこなしている」のであり、その場合は、さすがに叱責の原因となったあなた自身の業績なり、行動・言動を反省しなければならない。

   一方で、あなたはしっかりやっているのに、理不尽なことを言ってくる上司であれば、ブラック上司、モンスター上司と認識してよいだろう。相談として多いパターンからひもとかれる、ブラック上司の特徴から考察していこう。

<ブラック上司の主な特徴>
・そもそも人格的に破綻している
・自己愛が強く、自己評価もプライドも異様に高い
・自分の行動・言動が、他人にどう認識されているかについて無関心/無頓着
・プレイヤー時代には成果を挙げていた

(上記の特徴に当てはまらないが、「ブラック上司だ!」と感じられるパターンも存在する。それら別パターンの上司への対処法は、次回「タイプ別上司のトリセツ」で解説予定だ)


   そう、彼らはまがりなりにも上司なので、現在の地位まで出世してこられただけの、何らかの業績や貢献があったことは確かなのだ。しかし、あなたも「名選手、必ずしも名監督にあらず」という言葉を聞いたことがあるだろう。

   セールスなり、エンジニアなりの一プレイヤーとしては成果を出せた人でも、上司としてのマネジメントスキルを兼ね備えた人かどうかは分からない。でも、組織として出世させる基準は「業績」というのがもっとも判断しやすいのもまた事実である。

   したがって、プレイヤーとしての業績だけで上司となった人の中には、「プレイヤーとしては優秀でも、マネジメントスキルがない上司」というものが一定割合存在することになる。彼らは自分自身に成功体験があるだけに、「俺はできたのに、なんでこんなことがお前にはできないんだ!」などと責めてしまったりするのだ。

   また、「ブラック上司」を創りだしてしまうのは会社の問題、という面もある。

   そもそも、上司としてのマネジメントスキルよりも、わかりやすい業績で昇進させてしまうこと自体が原因でもあるのだが、そのような判断が繰り返されてしまうと、ブラック上司が再生産される、ということにもなりかねない。

   また、「管理職とは?」という定義をどう設定しているかも重要である。これまで述べてきたような「マネジメント」や「部下育成」ということが重視されているなら心配ないが、もし「プレイングマネジャーとして業績を上げる」といった項目が重視される環境ならば、部下そっちのけで自らの評価を上げるための行動を追求してしまう上司が出てきても仕方ないだろう。

   これまでもブラック上司は数多くいたはずだが、「上司の指導とはこういうもの」といった認識に阻まれ、被害の実態はなかなか表に出ることはなかった。昨今は幸いにも、企業のコンプライアンスについて厳しく問われるようになったため、理不尽な上司の存在が目立ってきたというわけだ。では、不運にもそのような上司に巡り逢ってしまった場合、あなたはどう対処したらいいのだろうか。

ブラック上司への対処法

   ブラック上司への対処というと、「労基署へ駆け込む」とか「裁判に訴える」などの手段を思い浮かべる人がいるかもしれない。ネット上などでは「胸がスカッとする復讐劇」といった形で採り上げられることもあるが、これらはあくまで最終手段と捉えたほうがよい。ブラック上司に困っているあなたには、それよりもまずやるべきことがある。以下、段階別に解説していこう。

(1)大前提として、あなた自身がキッチリと仕事に打ち込んで成果を出すこと

   →→組織で仕事をしている以上、義務を果たさずして権利を主張することはできない。

   仮に上司のやり方が理不尽だとしても、被害を訴える人の仕事がいいかげんだと「お前が仕事できないからだろ?」と捉えられても文句は言えないからだ。

   まずはやるべきことをやり、仕事で価値を創出しよう。

(2)普段から同僚同士で助け合い、困ったときに味方になってくれる人間を増やしておく

   →→あなたは「応援される人」になるべきだ。

   そのためには、あなた自身も普段から周囲を応援する存在であればいいだろう。

   自分自身の仕事でいっぱいいっぱいな状況かもしれないが、できる範囲から周囲にも目を向けよう。困っているメンバーがいたらサポートし、相談に乗ってあげるなど、「お互いさま」の気持ちで仕事に取り組めば、いざあなたが困ってしまったときも、普段のあなたがやってきたようなサポートを受けられることだろう。

   逆に、普段は周囲に無関心で、困ったときだけ助けを求めても、単に「虫のいいヤツ・・・」とさげすまれてしまうかもしれない。

(3)「パワハラの定義」や「労働関連法規」を知っておく

   →→何が違法なのかが分かれば、問題意識を持ちやすくなる(本記事最後に、厚生労働省が分かりやすくまとめた資料のリンクがあるのでご参照頂きたい)。健全な組織運営のためにも、問題のあり方は知っておきたい。

(4)「会社目線」「組織目線」で考える

   →→ブラック上司に対して、内輪で集まって文句やグチを言い合っているだけでは何も変わらない。上記(2)(3)を実践したうえで、職場の仲間とともに「あのような人がマネジメントにいると、職場としてコンプライアンス的にもよくない」といった「職場環境のための業務改善」という問題意識で扱ってみよう。積極的な提案として、ブラック上司の外堀から埋めていけるはずだ。

(5)とにかく「記録」と「証拠」をとっておく

   →→それでも、ブラック上司に対して何らかの復讐をしたい場合はどうすればいいのか。

   そのためには、「上司の所業を記録に残す」ことが重要だ。

   タイムカードや違法な業務指示のメール、就業規則などはコピーをとっておき、暴言やパワハラ発言はICレコーダーに記録。「○月○日の○時にこんなことがあった」と、1日のスケジュールをメモしておくのもいい。これらは全部法的対処をする際の資料になる。

(6)「労働基準監督署」に告発する

   →→いわゆる「労基署に駆けこむ」というやつだ。ただし、労基署はあくまで「労働基準法に則って事業所を取り締まること」が仕事で、労働者のお悩み相談所ではない。賃金未払いなど、確実な証拠が揃っている悪事が優先されるので、その前提で利用したい。本連載の過去記事(2013年5月23日配信)も参照してほしい。

(7)都道府県の労働局に「あっせん」を依頼する

   →→労働法の専門家であるあっせん委員が、労使双方から個別に話を聞いてあっせん案を作成し、それを双方が受け入れれば和解が成立するという公的制度である。

(8)「民事調停」や「労働審判」をおこなう

   →→いずれも労働紛争解決のための制度で、裁判に訴えるよりも手続きが簡単で迅速、かつ費用も定額というメリットがある。

   調停で合意した内容は、確定判決と同等の効力を持つ。また労働審判は、労働問題の専門家である労働審判員が双方の言い分を聴いて審判を行い、基本的に調停、和解による解決を目指すもの。「原則として3回以内で結審」「約2か月半で結果が出る」「結果には強制力がある」という点で、ブラック企業対策の切り札になると注目されている。

(9)「裁判」に訴える

   →→最終手段。弁護士費用を合わせると数十万円、そして1年以上の裁判期間がかかる覚悟が必要である。

あなたが「仕事ができる人間だ」と分からせる

   上記のうち、まずは(1)(2)の心得を大切に、あなた自身の職場で成果を挙げて頂きたい。

   もしかしたらあなたは、上司に期待しすぎなのかもしれない。

「上司とは仕事ができ、部下に対して理解があり、人間的にも尊敬できる存在である」

といった認識を持っていないだろうか。であれば、そんな考えは今すぐ捨て去ろう。

   上司とは単に、

「同じ部署で、一緒に仕事をしなければならない、(多くの場合)たまたま入社年次が上の人」

なだけだ。そう考えれば、対処方法も見えてくるだろう。

   「優雅な生活こそ、最高の復讐」という言葉もある。ブラック上司に対しては陰口や批判ではなく、「仕事の成果」で唸らせればよいのだ。課題には解決策を考え、上司が望む成果をキッチリ出し、あなたが「仕事ができる人間だ」と分からせることだ。

   あなたが組織にとってかけがえのない存在となれば、人間性や成果で周囲からは充分承認が得られるだろう。その時には、上司との関係性など細かいことはどうでもよくなっているはずだ。(新田龍)

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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