2024年 4月 27日 (土)

ワンマン社長は「言いっぱなし」「命令一辺倒」 だから「やらされ感」が蔓延する

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   前回に引き続き、スズキトップ交代関連報道をきっかけとした、事業承継がらみの話です。製造業C社のベテラン経営者H社長と雑談の時間をいただき、スズキ会長進退の話題から「私には会長の気持ちがよく分かる」「自社の遺伝子継承ができない限り、後継にバトンは渡せない」といった話でひとしきり盛り上がりました。

   H氏はすでに70代後半。創業者で、社長歴はすでに50年に近付こうとしています。後継は50歳を越えた常務で実質ナンバー2の長男。他社で5年ほど修行をした後に自社に転じて早四半世紀を越えながら、バトンタッチのタイミングがなかなか見えてこないのが、ここ10年来のお悩みであるようです。まさしくスズキ会長の中小企業版と言えそうです。

「リクルートのDNAが脈々と生きている」理由

一方的なんだから・・・
一方的なんだから・・・
「常務はまじめによくやっているさ。技術も分かる、営業もそこそこできるようになった。だがどうも、経営に関する私の理念や思想が伝わっていないと言うのか、どこか歯がゆい。常務がそんな状況だから、社内にも浸透する訳がない。子供の頃から『お前は私の後を継ぐのだから、自覚をもって歩め』と言い聞かせてきたのですがね。彼が今後トップとして現場をまとめていくには、その点が解消しない限り社長に据える決断ができんのです」

   同じ日の夕刻、C社常務と同じ50代IT関係の経営者Y氏と会食しました。Y氏は、総合人材企業リクルートの成長期に入社し、サラリーマン生活を20年ほど経験した後に独立して約10年。現在50人ほどの社員を抱え、eコマース関連事業を展開する成長企業の経営者です。コミュニケーションが不足がちになり、長時間労働なども重なって就労環境が悪いと言われて久しいIT業界にあって、組織運営の円滑さやES(従業員満足度)の高さが評判の企業でもあります。

   「事業の作り方、魂の入れ方、組織や人の動かし方や育て方は、すべてリクルートで学んだ」と言ってはばからないY氏ですが、まさにリクルートのDNAが脈々と生きている感が伝わるお話を、次から次へと聞かせてくれました。

社内の風通しと現場への目配りは徹底していた

   リクルートと言えば、創業者の故江副浩正氏が作り上げた企業遺伝子が今も脈々と生き、次々に優秀な起業家人材を世に輩出していると評判の企業でもあります。同じ日にH社長と企業遺伝子継承の話をした直後でもあったので、Y氏には「リクルートの企業遺伝子はいかにして受け継がれていくものなのか」について、少し聞いてみることにしました。

「私がリクルートに入った時代はまだ江副さんがトップを務めていたこともあるのですが、末端まで江副さんのやり方や考え方が浸透していました。でも、江副さんにいわゆるワンマン経営者のイメージはありませんでした。社内の風通しと現場への目配りは徹底しており、私が入社する少し前までは全社員の顔と名前が一致していたと言います。振り返ってみれば、企業内のあらゆる業務やことの進め方にごく自然と江副イズム、イコール、リクルートイズムが浸透し、経営者と現場の『距離感』に近さを感じるわけなのです。この点は江副さんが去られた後も脈々と受け継がれ、誰が上に立とうとも企業文化として大きく変わることはなかったです。そのことが今の自分の会社経営にも活きていると思います」

   何事も現場主義で、足を踏み入れ自身の思想を浸透させていく。江副氏のスタイルがあるべき企業遺伝子継承法のすべてではありませんが、先のH社長のお悩みに対してタイムリーに参考になる話であると感じさせられました。

   H社長の場合、Y氏が言うところの「距離感」というキーワードにまさしく問題点を感じさせられます。社長は創業者でかなりのワンマン。企業理念をしっかりと掲げ運営方針も自ら指示してはいるものの、長年ワンマン運営を重ねに重ね歳をとられた現在では、いろいろな場面で言いっぱなしあるいは命令一辺倒になりがちなご様子で、社長と現場との「距離感」は決して近いものであるとは言えない状況にあるからです。

後継者や現場と「距離感」ある接し方になりがちなワンマン経営者

   後継であるご子息との「距離感」はどうか。以前常務本人から聞いた話では、「子供の頃から、父と言うよりは社長として存在していた」と。言ってみれば、ここでもまた、社長は後継者との「距離感」を必要以上に作り上げてきてしまったのかもしれません。

   「やらされ感」という言葉があります。どんなに素晴らしい理念や方針であろうとも、目線合わせのない一方的な指示命令は、受ける側に「やらされ感」を生み出してしまい、真意を捉えた取り組みや根底にある理念の浸透はなかなか難しい、ということになりがちです。後継者や現場と「距離感」ある接し方になりがちなワンマン経営者は、その繰り返しの中で知らず知らずに彼らの間にこの「やらされ感」を生み出してしまい、それが企業遺伝子の浸透を妨げ、後継の育成も滞る結果になってしまっているのかもしれません。

   スズキの社長交代関連報道に端を発した事業承継が抱える問題への別角度からのフォーカスでしたが、ワンマンであるが故に陥りやすい「やらされ感」の蔓延という落とし穴の存在は、H社長だけでなく多くの企業経営者に知っておいて欲しいものだと思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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