「レールから外れろ」 サラリーマンを挑発する本
あのホリエモンが、成功する人たちには「共通のメソッドがある」と、自身が「イノベーター」と呼ぶ、様々なジャンルの男たちから聞き出した「成功」の軌跡と考え方をまとめた本が売れている。
副題に「あえて、レールから外れる」とあり、一つの組織や居場所から飛び出し、あるいは最初から入らず(入れず)、その後、何らかのポジションを得たものたちの自分史が中心だ。著者が分析して参考にすべき項目を1人ずつ、「ここがポイント!」「まとめ」というページもつき、学習参考書のノリもある。
「夢」と背中合わせの「地獄」の景色も重なる
登場する8人は、ジャンルも書道家、お笑いタレント、編集者、ユーチューバ―、アートディレクター、映画監督兼俳優、インキュベーター、社会評論家とばらばら。
比較的共通しているのは、ひきこもりのような時期を経験していること、やりたいと思うことをやり続けたこと、そして、仕事と趣味の境界があいまい、というあたりか。
一方で、目標の達成をドライに計算しながら、数年に及ぶ地味な、ときに壮絶な努力を続ける点も似ている。あとは、自分では楽天的な性格と思っていることだが、これは成功したから言えるのか、と思う。
広告には「画期的なビジネス書」とあるが、著書はかつて、長野刑務所服役中の日々を書き綴った『刑務所なう。完全版』(文春文庫)の中で、「私はビジネス書というものはほとんど読まない。だって、時間の無駄だから」と書いている。確かに、普通のビジネス書ではない。
「就職した会社で与えられた仕事に励み、定年を迎える。そんなレールに乗った、かつての『成功モデル』はもう溶けてなくなるだろう」といい、「今からでも遅くはない」と、サラリーマンにレールから外れるよう挑発している。
職場で閉塞感を抱いている者たち、あるいは、これから就職しようとしている学生たちは、この本にブレークスルーの道を探ろうとするのかもしれない。だが、ここにノウハウは書かれていない。それを探して読むなら時間の無駄ということだ。
著者はあとがきで「(本書で取り上げた)イノベーターと同じ風景を見てみたくはないか」と、さらに煽る。だが、その風景には、著者自身も見てきたに違いない、「夢」と背中合わせの「地獄」の景色も重なる。甘くはない。「覚悟」を迫る本である。(PN)