退職したいのに会社が認めてくれません 辞めたら賠償請求されますか?

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   8月(2015年)から、大手企業の就活面接が解禁されました。すでに複数の内定をもらい、「どの会社にしようか」と悩んでいる学生もいるでしょう。社会人の先輩の中には、「とにかく入社して、嫌なら辞めればよい」というアドバイスをする人もいるようですが、実は、本人が希望しても、なかなか会社が退職を認めてくれない、という相談は結構あるのです。こうしたケースは、若手社員に限りません。

   そこで今回は、退職を申し出ても、なかなか会社が認めてくれないというエピソードを基に、本人の退職の意思と、会社側の裁量の関係について考えていきたいと思います。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)

上司「新しく人を雇うだけでもお金と時間がかかる」

辞めたいのに・・・
辞めたいのに・・・

   私は、小さな広告代理店に新卒で入社してから、現在まで社員として5年間勤めています。仕事も職場も好きなのですが、先月末に急遽、父親が病気になってしまい、今月中には、会社を辞めて実家に戻り、家業を継がなければいけない状況になってしまいました。そのため、月はじめの段階で、上司に「今月末には退職をしたい」と話をしたところ、上司は「うちの会社は小さいから、1人抜けられるだけでも大変なことはわかっているだろう?それに1人新しく雇うだけでもお金と時間もかかるし。だからせめて、再来月までは残ってもらわないと困る」と言われました。

   もちろん、上司の言っていることもわからないでもないのですが、私以外に実家の家業を継げる人もおらず、どうしても今月中に辞めて帰らなければいけないのです。

   こういった場合、会社が認めなくても辞めることはできるのでしょうか?また、もし辞めた場合、損害賠償請求をされてしまう可能性があるのでしょうか?(実際の例を一部変更しています)

弁護士解説 雇用期間の定めがなければ、2週間以上前に伝えればよい

   労働者が「仕事を辞めたい」と言っているのに会社がこれを「認めない」ということは、少なからずある相談です。しかし、今回のご相談は家族の急病が退職理由ですし、すぐに退職を認めて欲しいものですよね。会社が認めなくても辞めることができる場合とできない場合があるのですが、雇用契約の期間が決まっている場合と決まっていない場合とで異なるので、解説していきたいと思います。

   まず、雇用期間の定めがない場合は、労働者が辞めるということを会社に伝えてから2週間が経過すると雇用契約は終了します(民法627条)。つまり、契約を終わらせたい日の2週間以上前に会社に辞めることを伝えれば、会社が認めなくても法律的には問題なく辞められるのです。

   これに対し、雇用契約の期間が定まっている場合(1年以内の場合)は、過失があったら損害賠償される可能性はあるものの、労働者は「やむを得ない事由」があるときは、会社の了承がなくても、会社を辞めることができます(民法628条)。「やむを得ない事由」とは、負傷により相当期間就労できなくなった場合が典型的ですが、近親者の介護の必要など家庭の事情もこれにあたる場合があります。なお、労働基準法137条により、雇用契約の期間が1年を超える場合には、契約期間の最初の日から1年が経過すれば、いつでも退職することができるとされています。

   今回のご相談は、雇用期間の定めのない雇用契約であると思われるので、2週間以上前に退職の意思を伝えれば辞められるということになりますね。

   次に、実際に会社を辞めるときの手続きの方法や意思の伝え方についてです。

   口頭で伝えても構わないのですが、後々トラブルになるのを防ぐためにも、書面の形で会社に提出するほうがよいでしょう。書面には、提出日と氏名を記載し、「○年○月○日をもって退職いたします」と明記します。その際、どのようなものを提出したのかが後で分かるようにするために、コピーをご自身の手元に残しておくことも大事です。

   また、トラブルが予想されるという場合には、内容証明郵便で会社に送り、会社を辞める意思を伝えたことやその時期について、後で証明できるようにしておくというのが確実な方法です。

損害賠償請求が考えられるケースもあるが、今回は・・・

   なお、退職をためらうケースの一つとして、会社を辞めると何らかの制裁的な金銭の支払いをしなければならない旨の合意がされている場合があります。例えば、退職した場合には、在職中に受けた研修費用を遡って支払わなければならない、と雇用契約で定められているような場合です。

   ここで知っておきたいのは、「賠償の予定の禁止」の規定(労働基準法16条)です。そもそも、労働者にはどの会社で働くかを決める自由がありますが、会社を辞めた場合に制裁として金銭の支払いをしなければいけないとなると、辞めたくても辞められないということになってしまいます。そこで、働く人の退職の自由を守るためにこのようなルールがあるのです。

   ただし、労働基準法第16条は「あらかじめ」定めることを禁止するもので、実際の損害額を賠償させることは違法ではないとされています。突然退職した労働者のために新たに求人費を使った場合、その費用を辞めた人に請求することもできなくはありません。とはいっても、実際に裁判等となった場合、突然の退職と求人費用の発生との因果関係の証明も行う必要があり、認められないケースが多いようです。求人費用の他にも会社に損害が発生することはありますが、多くの場合、損害賠償請求できないのが実情です。

   今回のご相談者の場合は、会社から損害賠償を請求されることはないと思いますので、安心して実家に戻り、家業を継いで下さいね。


   ポイント2点

   ●雇用期間の定めがない場合は、労働者が辞めるということを会社に伝えてから2週間が経過すると雇用契約は終了。雇用契約の期間が定まっている場合(1年以内の場合)は、過失があったら損害賠償される可能性はあるが、労働者は「やむを得ない事由」があるときは、会社の了承がなくても、会社を辞めることができる。

   ●口頭で伝えても構わないが、後々トラブル防止のため、書面の形で会社に提出するほうがよい。提出日と氏名を記載し、「○年○月○日をもって退職いたします」と明記する。また、コピーを手元に残しておくことも大事。

岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物が好きで、最近フクロウを飼っている。「弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ」を更新中。編著に、労働トラブルを解説した『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。
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