痴漢で捕まり示談 会社に報告する義務はありますか?

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   お盆期間など夏休みが集中するシーズンも終わり、少しすいていた朝夕の通勤電車も混雑が戻ってきたようです。通勤ラッシュ時には、寝起きの方もいたりして、様々なトラブルが起こりやすいので気を付けて出社・帰宅してください。

   トラブルの中でもよく耳にするのは、痴漢被害にあってしまったという話です。逆に言えば加害者もいるわけです。今回は、痴漢をはじめ、犯罪行為をしてしまった人が、会社へ報告する義務があるのかどうかについて、解説していきたいと思います。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)

会社で噂に

通勤途中で・・・
通勤途中で・・・

   私は、正社員として企業勤めをしている40代男性です。日頃のストレスやイライラが募り、魔がさして朝の電車内で女子高生に痴漢行為を行ってしまいました。私はその場で駅員に取り押さえられ、その後、被害者の女子高生とは弁護士を通して示談となりました。

   周囲には秘密にしていたのですが、私が痴漢で捕まったことが、どうやら勤めている会社で噂になっているようです。駅で私が取り押さえられているのを見た、と言っている同僚がいるようで、痴漢行為当日や、弁護士との話し合いの日に会社を休んだことも、噂を補強する形になっています。

   今度の件はプライベートなことなので、会社には秘密にしておきたいのですが、問題ないでしょうか。それとも、会社へ報告しなければならないのでしょうか。犯罪行為をしてしまった自分が悪いのは重々承知の上ですが、もし報告したら、退職を迫られるのではないかと不安です。退職まではいかなくとも、「噂」が事実だと確定してしまえば、今以上に会社で仕事がしにくくなってしまいます。どうすれば良いでしょうか。(実際の例を一部変更しています)

弁護士解説 法的に報告義務はない

   痴漢の被疑者となった場合に、弁護士にすぐに依頼するのは賢明ですね。被害者との示談は事実上、弁護士でないとできないので、痴漢をしてしまった場合はすぐに弁護士に頼んだ方がよいです。

   さて、今回は痴漢の事実を会社に報告すべきなのかとのご相談ですが、結論として報告する必要はありません。会社の業務と関係ないことについては、プライベートの問題ということになります。そして、従業員には、プライベートのトラブルについてまで会社に報告すべき法的義務はありません。したがって、会社に対して痴漢で捕まったことを報告する必要はないということになります。

   とはいえ、被疑者となると会社を遅刻・欠勤しなければならず、業務に支障がでることは明らかでしょう。遅刻や欠勤について何も連絡もしないとなると、無断遅刻、無断欠勤となり、懲戒処分をされたり、最悪の場合解雇になったりするかもしれません。そうならないためにも、遅刻や欠勤等により業務に支障が出る場合は、会社に連絡を入れる必要がありますね。

   次に、痴漢の事実が会社に知られた場合、すぐに解雇になってしまうのでしょうか。

   多くの会社の就業規則では、従業員が犯罪を行ったことを懲戒事由として掲げています。これは、従業員が犯罪を行った場合、会社の信用や名誉を棄損する可能性があるからです。したがって、従業員が犯罪を行ってしまうと、会社から解雇等の処分がなされる可能性があります。

   もっとも、従業員が私生活で犯罪を行った場合に、直ちに処分が有効となるとは限りません。なぜならば、会社の従業員に対する干渉は、原則として従業員の私生活にまでは及ばないからです。したがって、私生活で犯罪を行ったとしても、その犯罪によって、会社の信用や名誉を棄損した場合に限って処分が許されると考えられています。

会社の信用や名誉を棄損した場合に限って処分が許される

   では、今回問題となっている痴漢の場合はどうでしょうか。実際の裁判例では、電車内で痴漢をしたケースで懲戒解雇が有効とされた例もあります。もっとも、先に述べたとおり、会社の信用や名誉を棄損した場合に限って処分が許されると考えられますから、痴漢の内容、刑の重さ、犯罪を行った従業員の会社での地位等によっては、会社からの処分が無効となることもありえます。

   ただ、痴漢ではなく、殺人や強姦などの重い犯罪の場合には、一般的にはより会社の信用や名誉に与える影響が大きいと考えられますから処分は有効となる可能性が高いでしょう。

   以上のように犯罪を行ったからといって直ちに会社による処分が許されるとは限りません。しかし、たとえ会社からの処分がなくても、犯罪が許されない行為なのは当然です。日頃のストレスやイライラで人生を無駄にしないようにして下さいね。


ポイント2点

●プライベートのトラブルについてまで会社に報告すべき法的義務はない。したがって、自分の犯した犯罪を会社に報告する必要はない。

●多くの会社の就業規則では、従業員が犯罪を行ったことを懲戒事由として掲げている。しかし、該当の犯罪行為が、会社の信用や名誉を棄損した場合に限って処分が許されると考えられている。

岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物が好きで、最近フクロウを飼っている。「弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ」を更新中。編著に、労働トラブルを解説した『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。
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