2024年 4月 17日 (水)

接待で飲み過ぎ社用PC忘れた 「情報流出で損害」分、個人が賠償しないといけませんか?

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   10月よりマイナンバーが各自に通知され始めていますが、会社が個人のマイナンバーを管理しなくてはいけない為、より一層企業は守秘義務のある情報の量が増えてしまいました。会社には守らなくてはいけない情報(顧客や個人情報、製品情報など)が多数存在し、一度でも流出させれば大問題になることは間違いありません。

   しかし、どの企業でも情報リテラシー教育や社内システムの構築、PCのウイルス感染など対策を取っているものです。企業として行うのが当たり前ではありますが、そういった対策をどのようにとっているかで企業の真意や本気度が見えてくるような気がします。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)

クライアントの来季の商品情報が漏れた

あっ!パソコンを・・・
あっ!パソコンを・・・

   私は広告代理店で働いているのですが、以前、後輩社員が接待でクライアントと会社の部長に大量に飲まされ泥酔した為、社用のパソコンを帰りの電車に置き忘れてしまいました。そのパソコンには、クライアントの来季の商品情報が入っており、情報が流失したため、ライバル企業に似たような商品を先に発売されてしまいました。もちろん私の会社にクライアントから訴えると言われていますし、会社は後輩社員の責任を追及すると言っています。訴訟になれば、かなりの金額になってしまうのですが、後輩社員がすべて損害賠償を払わなくてはいけないのでしょうか。(実際の事例を一部変更しています)

弁護士解説 会社は「相当と認められる限度において」求償することができる

   会社のパソコンをなくすことは大失態ですが、クライアントと部長に大量に飲まされ泥酔してしまったのであれば、ご本人だけの責任とも言いにくいです。接待でお酒を飲んで盛り上げた上に、損害賠償を受けるなんてかわいそう過ぎですよね。

   まず、今回の場合、会社は使用者責任(雇用している側)として、クライアントに対して、クライアントが先に新商品を発売していれば本来得られたはずなのに得ることができなかった利益を損害額として支払う可能性があります。この場合、会社は、後輩の方に対して、クライアントに対して支払った金額を請求することができます。これを「求償」といいます。

   クライアントに発生した損害となれば、何十万、何百万では済みませんよね。「えー、そんな金額払えるわけないよ!」と思ったかもしれませんが、ご安心ください。判例上、会社は従業員に対して、「相当と認められる限度において」求償することができるとされています(茨石事件。最判1976<昭和51>年7月8日第一小法廷判決)。

   会社としては、情報セキュリティの重要性がこれだけ叫ばれているわけですから、クライアントの機密情報のような重要な情報には鍵をかけてパスワードを設定するとか、機密情報の入った社用パソコンの社外への持ち出しを禁止するとか、情報流出防止のため手を尽くすべきだったといえます。

   そうしたセキュリティ対策をせず、従業員の不注意で起きてしまった損害の大部分を、従業員に負わせるというのはいかがなものでしょうか。

   そうすると、後輩の方にも軽率な点があったのは確かですが、会社が支払った賠償金の多くを、後輩の方に請求するというのはできないものと思われます。

   結論として、後輩の方の負担する金額はそれほど高額にはならないでしょう。ただ、一定の金額については請求されてしまう可能性があるので、飲みすぎにはくれぐれも気を付けましょうね!

「故意」の場合は、懲役に問われる可能性も

   もしもこれが、置き忘れではなく故意に情報を流したという場合には態様が悪質ですので、請求される金額も上がります。会社の責任と従業員の責任を比べた場合、従業員の責任の方が圧倒的に大きいので、会社から求償される金額も当然、高額になります。

   それどころか、態様によっては、不正競争防止法という法律で処罰される可能性もあります。この法律は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金と、とても重い罰則が規定されています。

   また、資料を会社から持ち出して流出させたということになれば、別途、窃盗罪や横領罪、背任罪が成立する可能性もあります。

   なお、過失でクライアントの企業情報を流出させてしまった場合には、これを処罰する規定は現行法上ありませんので、刑事責任まで問われることはありません。


   ポイント2点

   ●会社がセキュリティ対策を行わず、従業員が不注意で情報を流出させてしまった場合は、会社も責任を負う。しかし、個人もある程度は負担する可能性がある。

   ●過失ではなく、流失が故意であった場合、不正競争防止法によって10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金が科される場合がある。別途、窃盗罪や横領罪、背任罪も負う可能性がある。

岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物が好きで、最近フクロウを飼っている。「弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ」を更新中。編著に、労働トラブルを解説した『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。
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