「下町ロケット」が熱くする 「経営者はかくあるべし」論議

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   中小企業町工場の奮闘を取り上げたテレビドラマ「下町ロケット」が話題です。大ヒットドラマ「半沢直樹」と同じ池井戸潤氏の原作で、元銀行員という氏の経験を踏まえた視点で描かれる等身大の中小企業経営者の姿は現実味あふれ、その一挙手一投足に興味をそそられます。

   主人公が社長を務める佃製作所は、東京都大田区に本社を置く従業員数十人規模の町工場。しかし技術力は高く、自社が持つ特許技術を使い大手企業帝国重工が手掛けるロケット部品供給を巡って、納品先の大手企業と技術系中小企業の意地とプライドをかけて大手の言いなりにはならない熱い戦いを繰り広げるという物語です。

大企業と中小企業の違い

「ロケット」を機に議論が・・・
「ロケット」を機に議論が・・・

   特に興味をひかれるのは、ドラマ中で描かれる大手企業と中小企業と、その2人の社長を巡る企業文化と経営者のあり方の違いです。

   システマティックな命令系統に従って計画的に前に進む帝国重工と、社長と社員が侃々諤々のやり取りをしながらも徐々に前進する佃製作所。不協和音が聞こえていた佃製作所内で社長の夢を社員が共有できた瞬間に、社内は一体化して大企業に正面から伍して戦える強い体制ができあがった姿が見事に描かれています。

   大手企業は社長を頂点とした厳然たる組織ヒエラルキーが確立され、社長は組織統率の象徴的存在であり社員のモチベーションは評価とそれに伴う地位や報酬のアップによって担保されていく。一方の中小企業は、社長が身近な存在でありつつもリーダーとしての存在感は大きく、その考え方や姿勢ひとつで社員のモチベーションは容易に上下する。この違いは、中小企業経営における大きなヒントであると改めて思わされるところです。

   先日会食した銀行OBのTさんが、「ドラマを見ていると、中小企業はどこも同じだなとつくづく思うよ」と自社の話をはじめました。銀行時代に支店長経験のあるTさんは、50歳を過ぎ取引先企業D社に取締役総務部長として出向。業績不振の壁にぶち当たっている同社の社内活性化に苦悩していました。Tさんが真っ先に問題視したのは、従業員のモチベーションの低さでした。社内に活気がない。それ突き詰めてみると、社員一人ひとりにやる気が感じられないという問題点に行きあたったのでした。

中小企業の社員は社長で動く

   Tさんは考えました。D社は年功制の古い人事制度が幅を利かせており、社員のやる気はこの制度が削いでいるのではないかと。彼がモデルにしたのは、銀行時代の1990年代以降に導入された実力主義的な信賞必罰の人事制度でした。頑張ればその分報酬が増え、逆に頑張らなければ減ってしまう。それまでののんびりしていた社風が引き締まり、いい意味での緊張感がバブル経済崩壊後の社内に徐々に定着していったことを思い浮かべていました。

   「やる気のない社員たちに火をつけて、社内はきっと見違えるように活気が出ると思います」。Tさんは自己の経験を踏まえた提案で社長の了解を得、社労士とも相談しながら新人事制度を設計して導入に踏み切りました。導入に際しては、大きな期待感をもって職場を回り新制度の浸透をはかりました。しかし半年、1年がたっても思うような効果は生まれず、むしろ「居心地が悪くなった」と同業他社に転職する社員が出るなどして、新制度は悪影響の方が目立ってしまう状況に陥ってしまったのです。

   社長からも「この先、どうするのか」と言われ、Tさんは悩み、銀行時代の元上司であるF先輩に相談に行きました。F先輩は同じく取引先に出向し、業績を順調に進展させ数年後には社長を任されるに至ったOBの成功者です。TさんがD社で仕掛けた人事制度改革の顛末を聞くと、「一般論だが」と前置きしながら次のような話をしてくれました。

   「大企業の社員は制度で動くが、中小企業の社員は社長で動くのです。要するに、大企業の大半の社員は、社長が誰であろうとどのような姿勢で仕事をしていようと関係なく、社内を動かす制度の良し悪しでモチベーションが上下する。中小企業は全く違う。どんなに良い制度を用意しようとも、社長が社員の方を向いて共に前に進む姿勢が見えなければ思う方向には動いてくれません。私も出向した直後には同じような失敗を何度かしました。その折当時の社長に助けられ、中小企業経営とは、社長とは、ということを学んだのです」

「まずは社長改革が先」

   同じように人間が集まってできている組織でも、大企業と中小企業ではそんなに違うものなのか。TさんはF先輩の話を目から鱗の思いで聞いたと言います。F先輩はD社の社長のタイプを聞き、「2代目で口数の少ないまじめでおとなしいタイプ」であると分かると、「まずは社長改革が先」とのアドバイスをしてくれました。

   「ビジョンを明確にして、社長自身の言葉で目指す姿を語らせること。社内で社長の周りに輪ができるか否か、それが中小企業が元気に発展できるか否かの分かれ目です」。

   Tさんは早速社長を中心とした社員とのコミュニケーションの機会を増やすとともに、来年度に向けてビジョンづくりを社長、幹部社員を集め膝をつめた議論を始めたそうです。

   大企業は制度で動くが、中小企業は社長で動く。

「『下町ロケット』からは、むしろ勇気をもらってますよ」。

   明るく現状を話すTさんを見る限り、先輩のアドバイスを活かして佃製作所同様うまく転換させる手ごたえを確実に感じているようです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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