2024年 4月 27日 (土)

「解雇の金銭解決」に労組は大反対 それでも私が「導入」期待するワケ

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これまで不当解雇に泣き寝入りしていた「中小ブラック企業の労働者」が救える?

   労組側の言い分は確かに正論であるが、筆者としては、それでも解雇の金銭解決に対して賛成の立場であり、導入へと進むことを期待している。その根拠は以下のとおりである。


(1)既存の制度でも確かに解決はでき得るが、現実的ではない

   現在、解雇についての紛争を解決できる手段としては「民事裁判」のほか、「あっせん」と「労働審判」がある。しかし、そういった法的手段に訴え出る場合は、結論が出るまで短くても数か月、通常で半年程度の期間を覚悟しなくてはならない。

   「あっせん」の場合、解雇にまつわる解決金で最も多い事例は「10万円」で、全体の8割が「50万円以下」である。そこからさらに裁判に進んだとしても、損害賠償請求が認められるためには、単に解雇無効についてのみならず、損害賠償が認められるだけの違法性があったのかという観点から判断されるため、かかる時間と費用は膨大になってしまうのだ。投下するエネルギーの割に得られる対価は不明瞭であり、大多数の中小零細企業労働者にとって現実的ではないのである。

   いつまで続くか、またどれだけかかるか分からない法廷闘争に持ち込むよりも、予め明示された基準に沿った解決金で処理できたほうが効率的だ。これは労働者にとっても、企業側でも事情は同じことだろう。


(2)そもそも、法的手段にさえ訴え出ない「泣き寝入り」が多い

   2013年度、全国の労働局に寄せられた解雇にまつわる相談件数は約4万件。しかし、そこから民事裁判まで進み、企業側が金銭を支払うことなどで和解まで至ったのはわずか1%、444件であった。

   「日本は解雇規制が厳しい」と言われるが、それが当てはまるのはあくまで労働組合が存在し、適法に運営されている一部の企業のみだ。大多数の中小零細企業には労組も存在せず、金銭補償もない解雇は日常的におこなわれ、労働者もいちいち裁判まで持ち込むこともなく次の仕事に移っていく。裁判にならないから、判例でも見えない実態があるのだ。

   こうした金銭補償基準が法的に明示され、「解雇には多額の費用がかかる」ことが共有されれば、不当解雇を防ぐ歯止めになり、不当解雇へのペナルティとしても機能し得る。不当解雇リスクに日々晒されている中小零細企業の労働者にはむしろ望ましいことであろう。

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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