「会社に貸しを作った」 そんな自意識の落とし穴
【企業不正に手を染める~】

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   以前、とある交差点で信号待ちをしていたら、これからお昼に向かおうとする会社員3人の会話が耳に入った。上司とおぼしき年長の男性が若手の2人に対して、「俺が若い頃はなぁ、なじみの飲み屋さんから白地の領収書をもらっておいて、いざという時に使えるようにしておいたもんだ」とちょっとドヤ顔で語り、若手2人は「へぇ、そうなんですかぁ」と感心していた。

   2人が本当に感心して「よし、オレもやってみよう」と思ったか、心の中では軽蔑していたかは定かではないが、是非後者であることを祈る。

経費を自己負担したままにしていたら

処理はきちんと・・・
処理はきちんと・・・

   当然のことながら、白地の領収書を悪用して私的な飲食代を会社に請求したら、懲戒処分を受けるのはもちろん、刑事罰を科される可能性もある。では、ここで問題。逆のケースで、本来会社に請求すべき業務上の経費を自己負担したままにしていたらどうなるか。

   1:会社の経費削減に貢献しているのだから、とやかく言われる筋合いはない。

   2:経費処理のルールに違反したことに変わりはなく、処分される可能性もある。

   正解は・・・

   以下のような事例を紹介したあとに、回答を示そう。

   ――消防局で経理を担当する職員Aが、研修講師の送迎などで使ったタクシーチケットの処理を溜め込み、タクシー会社からの請求代金数十万円を私費で払ったり、ほかにも500万円以上の支払いを規定の期間以上、滞らせたりしていたことが判明。Aは、戒告処分を受けた。他の事務を優先していたら請求処理がたまった、などと説明したという――

「貸しを返してもらう」と不正を正当化

   そう。答えは「2」だ。

   この事例は、職務怠慢の度合いがひどいため、Aが懲戒処分を受けるのは当然だろう。しかし、一時が万事である。経費処理の管理者は「本来会社に請求すべき経費を自己負担するのも不正請求である」ということを日頃から口酸っぱく部下に刷り込んでおき、毎月の経費処理を厳しくチェックしなければならない。

   「上司にも相談できず自分で支払った」という心理状態も興味深い。不正リスクを高める3つの要素(不正のトライアングル)の「他人と共有できない問題」をAも抱えていたということになる。だらしない担当者が悪いと言ってしまえばそれまでだが、担当者に任せきりにしていた上司の責任も重い。

   さらに、このような自己負担を放置しておくと、たとえ自分の意思で請求しなかったのだとしても、本人の心の中には「会社に貸しを作った」という意識が生じる。そして、そのようなわだかまりが高まると、自己負担をさせられたという不満感(不正の動機)が生じ、「貸しを返してもらう」と不正を正当化するリスクが高まってしまう。その結果、今度は、経費の不正請求や集金現金の着服などの不正行為に走ってしまうことになり兼ねないのだ。

   経費処理は事業活動に付き物であり、経費の不正請求(多すぎるのも少なすぎるのも)は、あらゆる組織に存在するリスクである。皆さんの部署は大丈夫だろうか。今一度、タクシーチケットの管理方法や経費申請処理のフローを見直す必要があるだろう。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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