超過勤務+高圧上司でもう限界 と産業医に相談したらとんでもないことに【「フクロウを飼う」弁護士と考える】

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   2016年は、暦の上で祝日が一度もつぶれることがなく、会社によっては10連休!という夢のようなゴールデンウィークになった方もいたようですね。一方、サービス業だと連休中が一番忙しいでしょうし、連休が取れなかった、という方も少なくないかもしれません。皆さんはどんなゴールデンウィークを過ごされたでしょうか?

   今回は、ゴールデンウィークどころか、休日返上で毎日残業してまで頑張った会社員のエピソードをもとに、「産業医の守秘義務と報告義務」についてお話しいたします。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)

事例=相談内容が会社に漏れ上司が「辞めろ!」と

この医者、秘密を守ってくれるのだろうか
この医者、秘密を守ってくれるのだろうか

   今の会社に勤めて2年になりますが、連日の残業や休日返上の出勤に加え、上司の高圧的な態度で、もう心も体も限界に近いと自分で感じており、産業医の先生との面談の際、そのことを正直に打ち明け相談をしました。

   すると数日後、上司に呼び出され「そんなに不満があるなら今すぐ辞めろ!」と大声で叱責されました。なんと産業医に打ち明けた内容が全て上司に漏れてしまっていたのです。

   産業医は普通の医者と違い、基本的に治療などを行わないというのは知っていましたが、まさか相談内容が筒抜けになるなんて思ってもいませんでした。産業医に守秘義務はないのでしょうか?

弁護士回答=産業医は事業者に対し指摘・報告の義務も負うので......

   残業などの激務で心も体も弱っていたところに、大変な思いをされましたね。今回のケースは、法律上どのようになるのでしょうか。

   産業医とは、労働者が快適な労働環境のもとで仕事ができるように、会社のなかで健康管理などについて専門的な立場から指導・アドバイスを行う医師のことをいいます。法律上、労働者が常時50人以上働く会社には、産業医を必ず置かなければなりません(労働安全衛生法13条、同法施行令5条)。

   今回は、産業医の先生と面談されたとのことですが、産業医の主な仕事は、健康診断等を通して労働者の健康を保持することであり、普通の医者と違って、治療などの積極的な医療行為は行なわないのが基本です。最近では、産業医による従業員のストレスチェック(仕事による心理的負担の把握)が義務付けられたことも記憶に新しいところです(平成27年12月1日に施行され、平成28年11月30日までの間に全ての労働者に対して1 回目のストレスチェックを実施することを義務づけている)。

   このように、「普通の医者」とは少し異なる産業医ですが、法律上は普通の医者と同じように守秘義務を負っています。つまり、健康診断等によって知った労働者の秘密を漏らしてはならず、秘密を漏らしてしまうと場合によっては秘密漏示罪(刑法134条1項)にあたり、懲役刑や罰金刑が処せられる可能性もあります。会社に雇われている(あるいは契約している)産業医といえども、労働者の秘密を会社に漏らすことは許されないのです。

   また、労働安全衛生法にも、健康診断や面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならないと規定されています(同法104条)。

   したがって、産業医であっても、従業員の同意がない限り、従業員の健康管理情報を上司に伝えてはならないのが原則です。

   しかし、同意がなければ産業医との相談内容を一切会社に報告できない、というわけではありません。というのも、産業医は、従業員に健康上の問題があることを知ったときには、事業者にこれを指摘・報告する義務も負っているからです。つまり、労働者の安全と健康のために最低限必要な範囲であれば、健康情報を会社に報告することも許されるわけです。

報告してほしくない相手がいるときは

   たとえば、従業員に過労による健康上の問題が認められた場合には、これを改善すべく、産業医は会社に対して労働時間を短縮するなどの策を講じるよう勧告することができます(労働安全衛生法13条3項)。ただ、この場合もできる限り本人の同意を得るように努めるべきですし、場合によっては個人が特定されないように従業員の名前を伏せるなどの配慮も必要でしょう。それから、精神疾患に関する診断名やHIVなどは誤解や偏見を招きやすいものであるため、特に慎重な配慮が必要となります。

   今回のご相談では、産業医の報告の仕方に問題があったのか、報告を受けた上司の受け取り方に問題があったのかは詳しくは分かりませんが、こういったトラブルがおきないように、産業医に相談する際には、報告してほしくない相手についてはその旨を明確に伝えておくようにしましょう。

   産業医は、ただ相談に乗ってくれる医師ではなく、よりよい職場環境をつくるためのお手伝いをしてくれる医師です。今後は、そのことをきちんと理解し、産業医に相談をするようにしましょうね。

ポイント2点

●労働者が常時50人以上の会社には必ず産業医を置かなければならず、産業医は通常の医師と同様に守秘義務を負う

●産業医は、従業員に健康上の問題があると知った時には、会社にこれを指摘・報告する義務も負っているため、情報を会社に報告することが許されている

岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物が好きで、最近フクロウを飼っている。「弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ」を更新中。編著に、労働トラブルを解説した『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。
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