2024年 4月 18日 (木)

人は自ら失敗しやすくなる行動を取る ゆえにやらされ感満載だと職場は

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   心理学の先生から興味深い話を聞きました。

   海外で行われた心理学実験のお話です。学生100人に、「これから新薬モニター実験を実施する」と宣言し、新薬の効果と個々人の能力水準の関係を調べる試験をするむねを説明して、出題例としてとても難易度の高い問題を事前に見せておきます。その上で、「思考力がアップする可能性がある新薬と、思考力がダウンする可能性がある新薬を用意したので、試験前にどちらか好きな方を選んで飲みなさい」と言うと、なんと90人以上の学生は思考力がダウンする可能性のある薬のほうを選んだといいます。

ダメな奴と思われたくないから

やらされ感を吹き飛ばせ
やらされ感を吹き飛ばせ

   この現象を「セルフ・ハンディキャッピング」と呼ぶそうです。すなわち、失敗の恐れがある事態を前にすると、人は、自らの評価や評判を気にして失敗の言い訳の材料になりそうなことを事前に探すというのです。そして現実に、そのような行動をしてしまうそうです。

   セルフ・ハンディキャッピングの身近な例として先生が挙げたのが、試験前になるとなぜかその時に読まなくてもいいような本を読みたくなったり、見なくてもいいようなテレビを見てしまったりして、翌朝学校で「昨日は夜遅くまで本を読んじゃって(テレビを見ちゃって)、ろくに勉強してないんだ」などの言い訳をするケースです。誰しも似たような経験が少なからずあるのではないでしょうか。

   「失敗した時にダメな奴と思われたくない」といった気持ちが、「失敗しやすくなる行動」を実際に起こさせるという心のメカニズム。それは、やらされ感が強い事態に直面し前向きになれない時ほど働きやすくなるのだそうです。余計な試験を受けさせられる新薬モニター実験もそう、学生時代の定期試験などまさにやらされ感満載です。セルフ・ハンディキャッピング行動が出やすくなるのはそのためなのでしょう。

   この話を聞いて思い出したことがありました。

この管理ではやる気が......

   銀行の若手時代に渉外担当をしていた頃のことです。渉外チームは課長の下に担当者が5人つく態勢でした。最初に仕えたH課長は、担当者時代の成績が評価され、若くして昇格したばかりのやり手タイプ。彼は5人全員に目標数値を均等に貼り付けると、項目別にいつまでにどれを達成しろと叱咤しました。それは彼が担当者の時に自らに課してきた自己管理方法で、我々担当者の意向を聞くことなく、いきなり部下の管理にも適用したのです。5人の一致した意見は、この管理ではやる気が損なわれ目標達成は難しい、というものでした。

   結果は悲惨でした。「今月は複数の遠方物件実査があるので、重点推進項目Aの推進はきついかなぁ......」「忘れてた! 資格試験勉強の追い込みが近いんだった......」。「昨日父が入院しちゃいまして、まいりました。しばらくは残業なしで病院に行かないと......」。やらされ感満載の5人から噴出したのは、明らかに言い訳と取れるムニャムニャした台詞のオンパレードでした。まさに目標未達成間違いなしの、やらされ感の中でのセルフ・ハンディキャッピング。チームの成績はメタメタになり、H課長は転勤になりました。

   後任として赴任したのは、ベテランT課長でした。彼は打って変わって放任主義。我々担当者に提案したのは、全員が個々の得意分野を主担当として活動し、それぞれのやり方で目標を目指し、5人のトータルでチーム成績を達成しよう、という方針でした。

   当時の支店長はこのやり方に不安を覚えました。H課長の厳しい管理下でも動かなかった渉外チームを放任主義で管理したら大変なことになるのではないか、と疑心暗鬼だったのですが、予想に反してT課長の放任策が大ヒットを呼びました。チーム目標は大幅突破。支店は総合表彰を受賞。渉外担当者全員が全店表彰を受けるという前代未聞の大記録を達成したのです。

ストレスを感じると飛び出す

   一番びっくりしたのはT課長本人でした。どちらかと言えば自己主張が少なく、放任主義といってもそれは結果放任管理というべきもので、これまでの店舗では実績が上がらず昇格が遅れていたところ、今度は同じやり方で驚くほどの成果が上がったのですから。恐らく、元々やらされ感満載でセルフ・ハンディキャッピングに溢れていたチームですから、自分の好きなやり方でのびのび取り組める環境転換にストレスが激減して、皆のやる気が一気に大増進したのだろうと、当時を振り返って思います。

   経験者としてつくづく思うことは、セルフ・ハンディキャッピング言動は、実は何より言っている本人がものすごいストレスを感じているからこそ出てくるのです。さらに、その言動が前向きな行動に集中することを阻害します。やらされ感の悪循環そのものです。課長の交代により、知らず知らず日々自分に溜め込んでいたストレスが吹き飛び、まったく違う展望が見えた――そんなこともあるのだと今でも不思議に思います。

   皆さんの会社で、社長がワンマンで細かい指示を出し陣頭指揮を執っているとしましょう。それでも実績が上がらず、仕事に取り組む前から社員にムニャムニャした言い訳が目立つようなら要注意! 社内にやらされ感が充満し、社員がストレス状態にあるのは間違いありません。そんな折には、社長は指示や管理をさらに強化したくなる気持ちをグッと抑えて、思い切って一歩引き、個々の社員の主体性重視へと管理のやり方を転換すると、それが思わぬ打開策になるかもしれません。

   心理学の専門家から聞いたセルフ・ハンディキャッピングの話に、そんなことを思った次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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