2024年 4月 26日 (金)

カープVがなぜ熱狂を呼ぶのか 「弱者戦略」成功ゆえと見たい

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   今回は、いつもとは少し違う切り口で、最近の出来事から企業マネジメントのヒントを探ってみます。

   プロ野球広島カープのリーグ優勝が巷の話題を呼んでいます。前回優勝した1991年から数えて実に25年ぶり。日本のプロ野球全12球団の中で最も優勝から遠ざかっていたチームの優勝に、地元広島だけでなく全国から喜びと祝福の声が上がっています。

中小企業が大企業に勝った

無名の君でも、カープで鍛えられれば
無名の君でも、カープで鍛えられれば

   カープの優勝が他球団以上の大騒ぎで迎えられているのは、25年ぶりという雌伏の年月が要因だとばかり思っていたのですが、様々な報道を見るにつけ、どうやらもっと重要な理由がありそうだと気づきました。一言で申し上げるなら、いわゆる雑草集団がエリート集団を凌駕した、私の関心に引きつけて言えば「中小企業が大企業に勝った」、そんな側面があるようなのです。

   カープが最後に優勝した2年後の1993年、さらに3年後の94年に、球界は大きな改革に踏み出しました。前者は新人採用における逆指名制度(希望入団枠制度)、後者は中堅選手の自由意思移籍を認めるフリーエージェント制度の導入(決定は93年オフ)です。これらの新制度は、一部の人気球団主導で進められた、明らかに「金持ち球団=大企業」に有利な施策でした。プロ野球界唯一の「市民球団=中小企業」であるカープは、球団創設以来常に運営資金に乏しく、この大改革を受けて一気に苦境に立たされたのです。

   ドラフトで欲しい選手から逆指名を受けるには高額の契約金が必要になり、「目玉」と言われるような有望選手は全く手の届かない存在に。さらにフリーエージェント制度で、選手は最短7年で自分の希望する他球団への移籍が可能になり、自軍で育てた主軸選手が高額年俸で金持ち球団に引き抜かれる事態が相次ぎました。カープが25年の長きにわたって優勝争いから遠ざかった理由は、そんなところにもあったのです。

若手の育成に金を投じる

   球界一の金持ち球団読売ジャイアンツとカープの選手の平均年俸では、今でも約2倍の差があるといいます。私の周囲にいる中小企業経営者たちがよく口にする愚痴に、「うちのような給料の安い中小企業に、優秀な人材なんて来てもらえない」「ようやく一人前になったと思った社員が、高給を求めてうちよりも大きな企業に転職されてしまう」がありますが、新制度後のカープの姿は、全くもってこれにダブるところだったのです。

   そんな「中小企業」カープは、いかにして「大企業」球団に勝つに至ったのでしょうか。四半世紀ぶりの優勝の裏側を伝える報道によると、そこには「中小企業」が「大企業」に勝つための長きにわたる弱者戦略が2つ、脈々と施されていました。

   まずひとつ目。フリーエージェントで主力選手を失ったカープが、選手放出の見返りとして得た収入を、他球団からの選手引き抜きに充てるのではなく、若手選手の育成に惜しげもなく投入したということ。

   現在のカープを支える選手の大半は、他球団からの引き抜き組でもなければアマ時代から「プロ注目」と騒がれた選手でもない、カープで鍛えられ育った選手たちなのです。「人を育てる」ことに徹する歴史が今の強いカープを作ったと言っても過言ではないでしょう。

   そしてもう一つは、「ファンを大切にする」姿勢です。

   市民球団であるという事情があるにせよ、カープには、応援してくれるファンをいかに楽しませるかを常に考え、行動する姿勢に溢れているのです。その好例が地元広島市を動かして2009年に完成したマツダスタジアム。砂かぶり席や、バーベキューを楽しみながら観戦できるエリアなど、米国視察などで得たアイデアがふんだんに盛り込まれた球場はファンの心をつかみ、「カープ女子」なる言葉をも生み、戦う選手たちの士気を高めるうえでも一役買ったのです。

   どうでしょう。「所詮うちは中小企業だから」、何事につけふた言目にはそんな弱音が口をつく中小企業経営者には、本当に参考になる事例に溢れているとは思いませんか。

いい人材を金で買うのでなく

   カープの2つの弱者戦略になぞらえて「大企業に負けない経営のコツ」を考えるなら、まずは「人を育てる」ことに投資を惜しまないこと。「いい人材が欲しい」と、いたずらに採用にコストをかけたり、多額の給与を提示して学歴・職歴重視の中途採用をする中小企業経営者をよくお見かけしますが、大切なのは採用という入り口ではなく、むしろ今いる人材を「育てる」過程に投資する姿勢ではないか、そう思わされることもしばしばです。

   もうひとつの「ファンを大切にする」という姿勢は、企業に置き換えるなら「お客様を大切にする」ということ。BtoCビジネスならば来店客や常連客。BtoBビジネスならばお得意先に対して、たとえ苦しい状況にあろうとも決して裏切らない仕事をすることに尽きるでしょう。端的に言うなら、商品や製品、サービスの質をこっそりと落とすことなどは、かえって自らの首を絞めることになる。苦しい時こそ、その質を上げお客様を大切にする姿勢を貫く、それが苦境を脱することにつながるのです。

   広島カープの優勝の裏にある、長きにわたって貫かれた弱者戦略に、企業マネジメントのヒントを見た思いがいたしました。それは、私がこれまで見てきた中小企業の成功事例、失敗事例とも符合するものです。皆様のご参考になれば幸甚です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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