社長に代わる「エース」はいない 営業育成の落とし穴

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   創業来ある程度まで成長を続けてきた中小企業は多くの場合、社長の営業力が会社の発展を支えてきたという側面を否定できません。

   その成長が踊り場に差しかかると言うのは、社長ひとりの力に頼っていたのでは業績進展が限界に近づいている、あるいは二代目にその座を譲ったり社長のパワーが歳と共に衰えてきたりしていると、営業の後継づくりが喫緊の課題になっているケースがほとんどです。

  • 「エース」がいない……
    「エース」がいない……

ヘッドハンティングの失敗

   こうなった場合に社長が考えることはたいてい、「自分に代わるようなエース営業が欲しい」ということ。しかし、ここには大きな誤りが存在しています。仮に経営者がそれまでの業績をけん引してこられたのは、自社事業に対する思い入れと人並み外れた行動力や人脈構築力があってのことでしょう。経営者に代われる営業担当など、一人として存在し得ないのです。

   社長が自分の代役となるようなエースをつくろうと思っている限り、「いつまでたっても、営業を任せられる後継が育たない」ということになり、ひいては「安心して引退できない」といつまでも会社に居座るような結果にもなりかねません。

   それが最終的には、「後継づくりに失敗して衰退していった過去の優良企業」を生み出す大きな原因でもあるのです。

   「自分に代わるエース営業担当育成」には、それ以外にも思わぬ落とし穴があります。

   機械商社F社の二代目社長は、実父の創業社長が広げてきた営業ルートは引き継いだものの先代の営業力に遠く及ばず、業績ジリ貧状態が続きました。

   再度の営業伸展に向けて二代目が考えたことは、営業部隊にエース営業をつくるべく、ヘッドハントで同業から経験、人脈豊富なベテラン営業を獲得することでした。

   コストをかけて獲得したベテラン営業は、期待に応えて目覚しい業績を積み上げていきました。ところが、実績が上がれば上がるほど「それに見合った給与が欲しい」との見返り要求も大きくなり、社長はまた頭を悩ますことになります。

   給与を上げるコストアップもさることながら、他の社員とのバランスを考え、一人だけ飛び抜けた大幅昇給を渋っていると、アッという間に転職していなくなってしまったのです。

生え抜きエースの自負

   稼ぎ頭の転職リスクはヘッドハント採用者だけではなく、生え抜きエースにも同じことが言えます。

   エースになると「自分が会社の業績を支えている」という自負が生まれ、「自分がいなくなったら困るだろう」という自信から報酬アップ要求が生まれやすくなります。そして、自社で望むような報酬が得られないと判断すると、より報酬のいい働き場を求めて求職する。今の時代は社員の会社への忠誠心など昔と比べようもなく、特に中小企業では長期雇用のメリットもあまりないケースが多く、じつに簡単に転職されてしまうのです。

   社長自身の代わりと思って採用した、あるいは稼ぎ頭をつくるべく育てたエース営業が突然いなくなるというのは、中小企業にとっては大変な痛手です。私が独立して間もない頃のことですが、そんな手塩にかけて育てたトップ営業に逃げられた知り合いの社長が、嘆き節で相談を持ちかけてきました。

「中小企業が先を考えて営業担当を育てるというのは、不毛ですよ。苦労してようやく稼げる担当者に育った頃に、より高い給与に釣られて他に持って行かれてしまう。引き止める力が弱い我々中小企業の宿命です。ならば結局、下手なダメージを負わないためにどこまでも社長が営業の一線に立ち続けていく、それしかないのかもしれません」

「砂漠に水」の中小企業の人材育成

   営業担当を育てても他社に持って行かれてしまう、だからどこまでも社長営業でやっていくしかない。しかし、それでは会社の成長はアタマ打ちになるのが見えています。ならば、どうすればいいのか――。

   営業の現場で試行錯誤を重ねつつ成果に至った結論が、「担当者を育てる前に営業管理者を育てて、管理と教育をしっかり請け負わせる」ことでした。

   まず、管理者自身あるいは経営者が実績を積み上げてきた過去の経験、さらに自社の優秀な営業担当者の成功体験を踏まえて、営業担当全員が統一して取り組むべき自社の営業スタイルをつくり上げる。そして、営業に必要な知識(商品、サービス、技術、競合、関連法令、経済動向など)を定義し、全員の知識の底上げを図る。そのうえで、十分な営業量を確保できるような体制づくりと日々の行動管理を徹底する。

   その後もこのやり方は、業種を問わぬ営業部隊の強化策として着実に成果を上げています。

   ポイントは、エース営業をつくることを目的にせず、もっぱら営業担当全体のレベルアップを図ることに注力すること。ハナから「営業にエースは不要」と割り切ることが重要であり、全員の営業力の底上げをすることで結果として社長営業をも無用にしてくれるのです。

   誰かがやめて後任と入れ替わっても、あるいは新人の営業部員が入っても、同じやり方を踏襲すればいいので、アタマ打ち知らずの営業体制の構築も夢ではないと実感しています。

   社長営業に頼っている企業、営業部隊の強化にお悩みの企業は、担当者を育てるのではなく、まずは営業管理者を育成。担当者のやるべきことを決めて、その管理を徹底することが自社発展の近道になる。この点はぜひともご記憶いただきたく思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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