「接客業を悩ます悪質クレーム」(後編)インタビュー「1人で背負わずチームで対応しよう」

   「バカ」「死ね」「辞めろ!」...... 悪質クレーマーの暴言が横行。接客業の現場を悩ませている実態を「前編」の労働組合の調査で紹介した。

   「後編」では、調査に当たった小売業などの従業員の労働組合「UAゼンセン」の常任中央執行委員、森田了介さんに対応の仕方について聞いた。

  • 森田了介・UAゼンセン常任中央執行委員
    森田了介・UAゼンセン常任中央執行委員
  • 森田了介・UAゼンセン常任中央執行委員

春闘で「お客のパワハラ対策」を会社側と協議するよう呼びかけた

――最近、モンスター化するお客が増えている気がしますが、理由は何でしょうか。

森田了介さん「理由は調べていませんが、私たちの勉強会で池内裕美・関西大学教授が悪質クレームを行なうことが多い人の特徴として、次の2つをあげています。ひとつは高学歴・高所得の人。この層はプライドが高く、完全主義の人が多い。『社長を呼べ』『謝罪文を出せ』などと要求します。
   もう一つはもともと社会的な不満の高い人々。そのイライラを言いがかり的なクレームや大声で怒鳴るなどの暴力的な行為でぶつけてきます。そして、これらの要因として、格差社会の拡大といった社会問題があるのではないか、と指摘しています」

――悪質クレームには、暴力団などブラックな人が多いと思っていましたが、社会的地位が高い人に多いのは意外です。

森田さん「組合員のアンケートでも、『消費者のモラルが落ちている』『消費者のサービスへの期待が過剰である』『(自分たちが)ストレスのはけ口になりやすい』と答えた人が多かったです」

――お客のイライラのはけ口になるのは、たまったものではありません。お客の抗議に、従業員が5時間も立ちっぱなしで謝り続けた例がありますが、従業員の精神的ケアにはどんな対策を考えていますか。

森田さん「2018年の労働条件闘争(いわゆる春闘)では、方針の中にベアなど賃金の要求と同時に職場のハラスメント対策も入れました。消費者からのパワハラを含め、悪質なクレームに対するマニュアル作りやハラスメント対策を労使で協議していこうと呼びかけています。
   これまでパワハラは、会社内の上下や同僚の関係だけが問題にされてきましたが、消費者(お客)・取引先という第三者からのパワハラをどうするかという視点で、会社ぐるみで労使と話し合ってほしいと思います」

鉄道会社は従業員を「お客の暴力」から守るのに、なぜ小売業はできない?

――会社に「要求」するのではなく「協議」ですか? 鉄道各社では「暴力行為防止ポスター」を駅構内に貼り出して、乗務員をお客の暴力行為から守るキャンペーンをしています。こうした従業員を守る姿勢は百貨店やスーパーではできないのでしょうか。

森田さん「小売やサービスの業界では『お客様が第一』という顧客第一主義が浸透していますから、不当な要求でも、まずはお客様の声を聞く、耐えなくてはいけないという風潮があります。『悪質クレーム』という言葉もインパクトが強すぎるので、『迷惑行為』と呼ぶ場合すらあります。私たちは一部の消費者による常軌を逸したクレームを問題にしているのですが、マスコミで悪質クレームの取り組みが報道されると、『われわれ消費者を敵に回すつもりか!』という誤解を招くこともあります」

――では、従業員は泣き寝入りですか? UAゼンセンでは、かなり具体的な悪質クレームに対する対策マニュアルを作りました(前編参照)。しかし、これは企業側と協力し合ってこそ成果を発揮すると思います。対策マニュアルのある企業はどのくらいあり、また、会社側がとる毅然とした対応とは、具体的にどんなことをするのですか。

森田さん「対策マニュアルのある企業がどれだけあるか、現段階では調べていません。推測ですが、決してすべてが泣き寝入りではなく、明らかなセクハラや殴る、包丁をちらつかせるなどの暴力行為は犯罪ですから、警察に突き出すこともあると思います。
   また、危ない時は上司や警備員を呼び、チームで対応することもあります。ただ、私も書店で高齢男性が、本を持ってくるのが遅いことに腹を立て、女性店員の顔にしおりの束を投げつけた場面に遭遇しましたが、あっけにとられてすぐ対応できないのが現実です。泣きじゃくる女性店員のケアをしているうちに気づいたら、客はいなくなっていました」

被害に遭う店員も、お客として他店に行くと悪質クレーマーに変身?

――ところで、被害に遭う従業員も、お客の立場で他店に行くと「悪質クレーマー」になる可能性もあるのでは。2017年12月に日本労働組合総連合会(連合)がまとめた「消費者行動実態調査」によると、接客業の人の6割がお客から迷惑行為を受けたと答える一方、お客として店に苦情を言ったことがある人が6割もいました。この割合は他の業種の人より高かったです。

「もしかして、私、言い過ぎたかも...」キャンペーン(UAゼンセン流通部門提供)
「もしかして、私、言い過ぎたかも...」キャンペーン(UAゼンセン流通部門提供)
森田さん「そういう傾向はあると思います。自分が接客のプロなので、逆に店側のアラが見えることもあるでしょう。商品やサービスを提供する側も、立場が変わると悪質クレーマーになる可能性があります。そこで私たちは、『サービスを提供する側と受ける側がともに尊重される社会の実現』を目標に掲げ、『もしかして、私、言い過ぎたかも』という携帯・眼鏡クリーナーを配る啓発活動も行っています(写真参照)。まずは、私たち自身が悪質クレーマーにならないことが大切で、すぐに怒らず、ひと呼吸おこう、お互いを思いやれる社会にしようと訴えています」

――それはとてもいい活動ですね。最後に接客サービスで働く人や会社側にこれだけは訴えたいことがありますか。

森田さん「現場の従業員には、決してひとりで背負い込まず、組織で対応しようと言いたい。弁護士を招いた勉強会では、『悪質な客にはイエローカードを切ろう。3~5枚たまったお客が店に来たら、チームで対応しよう』とアドバイスされました。会社側には、明らかにおかしいお客には毅然とした態度をとろうよ、と呼びかけたい。従業員任せの対応は企業側にとってもマイナスです。
   悪質クレームへの対応には販売機会のロスにつながるとともに、時間やコストもかかるからです。また、従業員がイヤになって辞めたら、それこそ人手不足に拍車をかけ、産業の魅力を損なうことになります。『顧客第一主義』偏重の風潮から一歩踏み出し、毅然とした対処ができるよう、従業員と一体になって取り組もうと呼びかけたいです」
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