2018年 8月 17日 (金)

摩訶不思議!? 政府の高齢者雇用対策(その2) みんながハッピーな職場は可能なのか(鷲尾香一)

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   現状では、限られた人件費を、60歳定年以降の雇用者を現役社員とで奪い合う構図は避けられそうにない。高齢者も現役世代もお金は必要だ。

   しかし、問題は賃金だけではない。企業の中では、60歳定年以降の雇用者と現役社員が同じ職場で働くうえでで、さまざまな軋轢が生じている。

  • 高齢者の「やる気」を引き出すには……
    高齢者の「やる気」を引き出すには……

上司と部下の関係、ギクシャク

   「上司が部下に、部下が上司になる」。60歳定年以降に同じ仕事、同じ部署で雇用を継続すれば、当然起こる事態だ。

   「仕事が遣りにくくて仕方がない」――。ある大手製造業の40歳代の課長は、そう言う。「60歳定年後の元上司が、どういう理由かわからないが、自分の課に配属された時には、本当に困惑した。課のメンバーは、課長である自分よりも元上司の顔色を見るようになり、課のチームワークが悪くなった」と嘆く。

   一方で、部下となった元上司にしても、自分が仕事を教えた部下に仕えるのには抵抗もあるだろう。このため、その製造業では「60歳定年以降の雇用者については、部署転換が原則」という。

   しかし、「それでも、現役の幹部からは先輩社員を部下として受け入れるには抵抗があるという声は多い。また、受け入れることになる部署の管理職は、なるべく過去に同じ職場だったことがないように調整するのに、大変な労力がかかる」と、この製造業の人事担当者は指摘する。

   60歳定年以降の継続雇用に対する難しさは、待遇面にもある。前出の人事担当者は、「60歳定年以降の雇用者の賃金をどの程度に設定するかは、現役社員とのバランスで非常に重要。だが、それよりも評価基準をどうするのか、賃上げをする、しないのほうが、より重要な問題になる」という。

   「人事評価基準は、直接的に賃金に結びつくので、現役社員との評価のバランスが難しい。半面、60歳定年以降の雇用者は評価の対象外で、賃上げの対象にもならないと決めてしまえば、仕事に対するモチベーションは下がり、戦力としては期待できなくなる」と、人事担当者は漏らす。

   こうした点は、確かに骨太の方針に示されたように、「高齢者は健康面や意欲、能力などの面で個人差が存在するという高齢者雇用の多様性を踏まえ、一律の処遇でなく、成果を重視する評価・報酬体系を構築する」必要がありそうだ。

暗中模索...... 企業の高齢者の戦力化

   とはいえ、大手小売業の人事担当者は「現在は高齢者雇用が緒に就いたばかりであり、賃金体系も評価体系も暗中模索の段階。そもそも、定年延長なのか、再雇用なのかで考え方も、賃金体系も評価体系も違ってくるだろう。高齢者をどのように戦力化していくのかという基本が固まっていない段階だ」と、暗中模索だ。

   「たとえば、少子高齢化が進み、働き手不足から職場は高齢者が中心となれば、必然的に定年が延長されることになるだろう。この場合には、現状の賃金体系や評価体系を手直しすればよいが、現状では、現役社員と高齢者では別の賃金体系や評価体系を作らざるを得ないだろう」と大手銀行の人事担当者は言う。

   一つの方法としては、高齢者に対しては賃金は抑制して、現役社員との格差を設けるが、評価によってストックオプションを付与し、自社株やその配当を報酬として付与したり、あるいは近年話題となっている株式給付信託を使った自社株報酬制度で、高齢者の報酬を別建てにするなどの案も聞かれる。

   いずれにしても、60歳定年以降の雇用者をどのように処遇し、戦力としていくのかは、なかなか難しい。ただ、高齢者雇用の問題点は、民間にだけあるのではない。国の制度では、致命的とも言える欠陥がある。高齢者を十分な労働力として使い、豊かな老後を過ごすためにも、この欠陥は早急に改善しなければならない。

   次回は、高齢者雇用に関連する国の制度上の問題点を指摘する。(鷲尾香一)

(つづく)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
1990年、金融専門紙の副編集長を経て大手通信社に入社。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、日本銀行、金融庁、東京証券取引所を担当。2005年からマクロ経済と企業ニュース担当の編集委員。2007年3月末に退社し、フリーに。金融業界の内部事情から経済事件、企業経営まで幅広く取材。その鋭い分析力には定評がある。秋田県生まれ、59歳。
著書に、「企業買収 ― 会社はこうして乗っ取られる ― 」がある。
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