時短勤務を取引先に伝えるべき? 「同僚が迷惑」「プライベートな問題」で大炎上 専門家に聞いた

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   「時短勤務のことを取引先にも話さなければいけないの?」という投稿が、インターネットで大炎上の騒ぎになっている。上司から「君が帰った後の電話の応答を同僚が負担し迷惑している」と注意を受けたが、「プライベートのことを取引先に言うことに納得できない」と反発したからだ。

   「同僚のことも考えて!」「非常識!」とブーイングの嵐だが、一方で「私生活と仕事は別のはず」と投稿者に共感する声も。時短勤務は取引先に伝えるべきなのか、また、時短勤務の人はどう働けば取引先や同僚とうまくやっていけるのか。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、主婦の働き方に詳しい専門家にアドバイスしてもらった。

  • 保育所に子どもを預けるママは時短勤務が多い(写真はイメージ)
    保育所に子どもを預けるママは時短勤務が多い(写真はイメージ)
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上司「君が帰った後の電話対応で同僚が残業している」

   話題のきっかけは、女性向けサイト「発言小町」(2018年4月25日)に載った、こんな投稿だった。

「私は時短勤務で働いています。毎日テキパキと限られた時間内で人一倍密度の濃い仕事をしています。当然ながら上司にも高く評価されてきました。同僚からも時短の理解は得られていると思っていました」

   ところが、4月の異動で新しく来た上司から「君が午後3時に退社したあと取引先からの電話が結構多く、他の社員の負担になり、残業する者もいる。取引先に対して時短勤務である事実を伝え、折り返しの電話は3時までにくれるようお願いしなさい」と指示されたという。

   これに対し投稿者は、

「社内の労働時間の問題や、子育てという私的なことを取引先に知らせるのは公私混同で失礼、社会人として不作法です。こうした問題への対応は管理職の義務であり、新しい上司が力不足なのであって、取引先には何も話さなくていいですよね?」

と、上司の無能力ぶりの問題とした。

   これまでの仕事ぶりを前の上司から評価されていただけに、プライベートの問題を取引先に知らせることは大いに不満だったようだ。しかし、この投稿には嵐のような猛反発の意見が殺到した。

「クライアントに対して失礼とか、どの口が言うのでしょう? 失礼なのは同僚に迷惑をかけるような仕事しかできないあなただと思います」
「前の上司がかなりフォローしてくれていただけで、人一倍仕事が出来ている訳ではなかったんじゃないの? 少し謙虚に生きてみたら?」
「同僚の不満に気づけていないようなら、あんた、本気でヤバいよ」

と、回答する側もやや感情的にエスカレート気味だ。

   ただ、時短勤務であることを取引先に伝えるべきかどうかに関しては、さまざまな意見が寄せられた。

「上司からの命令を無視するの? 子育てを伝えろとは言われてないでしょ。単に時短勤務であるとだけ伝えれば?」

と、上司の指示に従うべきだという意見もあれば、

「本当に仕事が出来る人は、自分が不在の時、自分あてに電話がかかってきた場合、どう対応したらよいか、他の社員に完璧に申し送りするものです。自分が帰った後はメールにしてもらうとか、いくらでも相手に伝える方法はあるはず」
「その時間帯を不在することに対し、時短勤務であることや、子育中という私的な理由を述べる必要はまったくありません。ただ、『○○時以降は不在がちになる』と先方に伝えておくのは投稿者の役目です。私の職場の時短勤務者も『○曜日は午後から不在です』と相手に伝えています」

と、あえて時短であることを明かす必要はないとする意見も目立った。

「成果」を求める上司と「寛容」を求める主婦のズレ

   J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、主婦の働き方に詳しい、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルの調査機関「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長に、この炎上騒ぎの背景について意見を求めた。

   ――「時短勤務であることを取引先に伝えなさい」という上司の指示に従わないばかりか、「無能である」と決めつける投稿で、問題はかなり根深いように思えます。

川上敬太郎さん「本来であれば直接上司との間で考え方をすり合わせなければ、業務に支障をきたす問題かと思います。しかし、上司との間に不信感のような感情的な壁が生じてしまっているようです。
上司が変わったことで自身への評価がガラリと変わったことへの戸惑いが、それだけ大きなダメージを投稿者さんに与えてしまったように感じます。
その根底にあるのは、投稿者さんと周囲との間の認識ギャップかもしれません。特に直接的に影響している可能性があるかもしれないのは、上司と投稿者さんとのコミュニケーション上の認識ギャップです」

   ――どのような認識のギャップでしょうか。

川上さん「私たちは『主婦にとって働きやすい上司とはどんな人物と思うか』という調査を行ないました。働く主婦と上司の双方に同じ質問をしたのですが両者の間で認識のズレが生じやすい項目が二つ、目立ちました=別図参照。一つは『自分の仕事の成果に対して、期待をしてくれている』かどうかについて。上司の半数以上はこの項目が重要だと考えていましたが、主婦層のほうは3分の1にとどまっています。
上司としてはよかれと思って期待するつもりでいろいろと指摘しても、受け手側にとってはその期待を重荷に感じたり、指摘を単なるダメ出しと捉えたりするケースがあるかもしれません。さらに、期待している成果の内容の認識自体がズレていると、より強いズレをお互いに感じてしまうはずです」

   ――もう1点は何でしょうか。

川上さん「『仕事上のミスや失敗に対して寛容に受け止めてくれる』かどうかの項目です。主婦層の4割近くが上司に寛容さを求めています。ところが、寛容さを重視する上司は主婦の半分の2割以下で、ドライに失点を指摘する傾向があります。上司がこのスタンスだと、やはり認識のズレは大きくなってしまうはずです」

   ――確かに投稿者は、前の上司に比べ、新しい上司は寛容さに欠けていると意識しているように見えます。それに、「成果」の面でもズレがありますね。

川上さん「ただ、決して上司が成果を期待することが間違いだとは思いません。仕事で成果を求めることはむしろ正しいはずです。また、主婦層も成果を求められることを嫌がっているわけでもありません。大半の主婦は、成果を出すべきという認識をしっかりと持っています。ただ、コミュニケーションをする上で、重視するポイントに違いがある可能性を念頭に置いておく必要があるのだと思います。
気を付けるべきは、思い込みではないでしょうか。上司側は、働く主婦が出すべき成果について認識しているはず、とか、成果を出すよう期待して指摘することを相手も望んでいるはず、という思い込みを持ってしまうと、コミュニケーションにひずみをもたらす可能性があります。
一方で、働く主婦側も、自分は十分成果を出しているから上司の指摘など受けないはず、とか、上司は自分のミスや失敗には寛容であってくれるはず、と思い込んでしまうと、イメージと異なる対応をされた際に、必要以上に大きなダメージを受けてしまうと思います」

伝えるかどうかの基準は、業務に支障があるかどうか

   ――まさに、投稿者の今の上司に対する憤りがそうですね。

川上さん「日頃から認識にズレが生じることがありうることを念頭に置き、お互いにこまめに意思疎通を図りながら、できる限り思い込みや認識のズレが生じないような関係性をうまく構築することが、コミュニケーション上の認識ギャップを最小化するうえで、何よりも確実な対策だと考えます」

   ――ところで、時短勤務の人は仕事の相手側にその事実を伝えるべきかどうかについてはいかがですか。投稿者は「プライベートのことだから伝える必要はない」という考えです。一方、回答者の中には「仕事相手にも同僚にも迷惑をかけているのだから伝えるべきだ」とする人が多くいます。

川上さん「伝えるかどうかは、業務に支障が生じるか否かが基準になると思います。基本的には、『折り返しのご連絡をいただく際は○時までに』とお伝えすることはNGではない、むしろせっかく折り返していただいたのに、本人不在となると、そのほうが失礼になってしまいます。問題のポイントは、その折り返しは本人しか対応できない内容なのかどうかということではないでしょうか。
もし、社内の他メンバーでも対応できる内容ならば、時短勤務の社員が勤務時間内に折り返しを受けた際に、たまたま席外しだったとしても他社員が対応できるわけですから、敢えて○時までにとは伝えずに、『折り返していただいたら電話に出た者が対応いたします』ということで問題ないように思います。またその場合、時短勤務の社員が同様の場面で他社員の代わりに対応することもあるわけですから、お互いさまで、特別問題視されるようなことにはならないと思います」

   ――なるほど。

川上さん「時短勤務の社員本人でないと対応できない、または本人が対応してくれることを取引先が望んでいる場合は、対応可能な時間をお伝えして、それまでに折り返しいただければ本人が対応できる。それが難しい場合は、翌日以降の対応になる旨をお伝えする必要があると考えます。伝えておけば顧客側も予定が組みやすくなりますし、逆に伝えておかないと、電話をかけるという余計な手間を顧客にかけさせてしまうことになります。
一方、他社員には電話応対の手間が余計にかかり、場合によってはクレームになるケースも想定されます。子育てが理由で時短勤務にしていることは私的な情報であり、必ずしも伝える必要はないかもしれませんが、『○時までの勤務である』ことは、相手にとっても実務上必要な情報なのではないかと思います」
主婦にとって働きやすい上司の人物像調査(「しゅふJOB総研」提供)
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