2018年 9月 20日 (木)

トルコ危機は「リラ買い」の好機なのか? 市場は「慎重な楽観主義」だが......(小田切尚登)

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   トルコリラの動きが激しい。2017年末に1ドル3.8リラ前後だったのが、18年8月13日には7.0リラまで下がった。その後ある程度戻して本稿執筆時点(8月17日)で5.8リラあたりにある。

   トルコリラの急落は、日本国内だけでなく、他の新興国さらには世界経済にまで影響を与えている。

  • トルコは米トランプ政権と袂を分かった
    トルコは米トランプ政権と袂を分かった

エルドラン大統領の独裁色強く

   トルコのGDPは、2017年末に8490億ドル(93.4兆円)で世界17位。上位国の一つであるが、世界経済を揺るがすほどの規模ではない。エマージング・カントリー(新興国)としては、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)に次ぐ第二グループに属する。

   トルコではエルドアン大統領が2003年からトップとして君臨してきたが、近年は独裁主義的な傾向を強めている。福音派の米国人牧師を拘束していることに対してトランプ米大統領が釈放を要求し、両国の対立が激化した(福音派はトランプ大統領の強力な支持母体である)。ついには互いに輸入品へ関税をかけあう事態にまで発展してきた。

   ただ、トルコ経済が厳しい状況に陥ったのは、最近始まった話ではない。最大の問題は貿易赤字(輸入超過)が累積してきていたことにある。対外債務は2200億ドルとGDPの半分を超え、厳しい状況である。

   ドル建ての借金の割合が高いので、リラ安が進むと借金(リラ換算)がどんどん増えていく。インフレ率も20%を超え、国民の暮らしは苦しくなっている。

   自国通貨安を防ぐためには金利を上げるのが常套手段だが、エルドアン大統領はそれを拒絶している。

アルゼンチン、UAE、フィリピンは「ひとまとめ」

   ここで、新興国(エマージング)市場についておさらいしておこう。

   エマージング投資はリスクが高めであり、中上級者向けの投資手法と言ってよい。先進国よりも信用力が劣るのは当然であるが、加えて市場が小さく不安定であることが特徴である。

   先進国の年金などの巨大な資金が新興国市場に投下されると「池に放たれたクジラ」ような状況となり、容易には抜け出せない状況になってしまう恐れがある。加えて政治的に不安定な国も多く、今回のように思いもよらぬ事態が生じる可能性がつきまとう。

   今のように円やドルの利回りが非常に低い時代には目先の利回りが高い新興国投資は一見魅力的に映るが、その分リスクも高いことを肝に銘じる必要がある。

   翻って、今回の問題はトルコという国の個別の事象である。トルコの金融市場自体は大した規模ではなく、トルコの株式市場の時価総額は世界全体の0.1%よりもずっと小さい。本来ならば日本の我々が心配するべき問題に発展するような話ではない。

   しかし、今回は新興国市場全体を揺るがす事態になった。トルコ問題の余波を受けて、アルゼンチンペソはトルコリラ以上に下がったし、UAEディルハム、フィリピンペソ、インドネシアルピアなども軒並み15%超(ドル建てで計算)の下落となっている。これらの国とトルコとはほとんど関係がないのに、である。

   これはひとえに世界の投資家がエマージングをひとまとめに見ているために他ならない。国ごとの差別化がなされず、全体をまとめて売る・買うという行動がなされているのだ。

   これは望ましい状況ではないが、現実がそうなので仕方がない。

トルコは米トランプ政権と袂を分かった

   トルコはもともと中東諸国の中でも、最も民主的な政策を推し進めてきた国とされてきた。米国との軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)への参加もそのおかげである。しかし、いまや米トランプ政権とは袂を分かった格好だ。

   エルドアンは「他に友人がいる」などとして米国をけん制するが、米国以外に頼れる存在はない。ロシアには経済力が乏しいし、中国には他国を救済するノウハウに欠けている。IMFの援助を得るのは、今の政府のスタンスでは困難だろう。エルドアン大統領の政策は現実社会を無視したもので、トランプ大統領と同じレベルでつまらない喧嘩をしているとしか言いようがない。

   しかし、彼は長年トルコのトップで君臨してきたしたたかな政治家である。今はメンツのために肩ひじを張っている格好だが、いずれは現実的な政策に移行していくのではないか――。今のような異常事態は早晩収まっていくという可能性を70%くらいにみている。

   逆にこのまま事態が悪化し続けて、ひいては世界経済をもろとも引きずりおろすというような可能性は30%程度と考える。現実のマーケットではトルコリラが若干戻してきているが、それも市場の「慎重な楽観主義」を反映していると思う。

   では、トルコリラが売られて安くなっている、今こそ買いに入れば儲けられるのか、ということだが、それはオススメしない。これは非常にリスクが高いやり方である。一度失われた国の信用が全面的に回復されるのには時間がかかる。

   せいぜいトルコリラにつられて下がった他の新興国を買いに動く、というのがいいところだろう。いずれにせよ、一般の個人投資家としては、よほど遊んでいる資金があるというのでもなければ、そういう火遊びはしないほうが賢明だ。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ、60歳。
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