2018年 12月 19日 (水)

2022年、都会の「生産緑地」が宅地に変わる! どうなる地価? どうなる農家?(鷲尾香一)

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   国が「2022年問題」の解決に向け、本腰を入れて動き出した。果たして、回避することは可能なのだろうか。

   2022年問題とは、「生産緑地指定の解除問題」だ。「生産緑地」とは市街化区域内の土地のうち「生産緑地制度」にそって管轄自治体より指定された区域を指す。大都市圏に住まわれている方なら、住宅地の中にある畑などに「生産緑地」と書かれた立札のようなものをご覧になった方も多いだろう。

  • 2022年、都会の「生産緑地」が大変なことに……
    2022年、都会の「生産緑地」が大変なことに……

生産緑地の指定解除、条件は2つ

   この生産緑地は都市部の農家に対する税の優遇措置として設けられた制度で、1991年に市街化区域内の農地について、固定資産税および相続税の課税が「宅地並み」から「農地並み」に引き下げられた。ただし、税の優遇を受けるためには、農地が「生産緑地」に指定されなければならない。

   しかし、生産緑地に指定されると厳しいルールが課せられる。基本的に「30年間」は指定を解除できないし、土地の所有者または管理者は、農地として維持管理することが求められる。生産緑地は、農地以外に利用できないし、その土地の中に農業関連以外の建物を建てることもできなくなる。

   生産緑地指定を解除できる条件は2つしかない。1つは指定を受けてから30年が経過すること。もう1つは土地所有者または主たる農業従事者が病気や死亡により、農業を継続できなくなった場合だ。

   さらに、実際の指定解除の場合でも、生産緑地に指定した市区町村に土地を買い取ってもらうよう申し出ることが条件。そのうえで市区町村が土地を購入せず、また他に生産緑地として購入する者がいない場合に、その土地は生産緑地の指定が解除されるというステップを踏む。

生産緑地の指定解除で、農地の引き取り手がなくなる

   じつは、この仕組みが大きな落とし穴となっている。これまでにも、農業を継続できなくなり生産緑地の解除手続きが行なわれた例は多々あるが、そのほとんどは「財政が厳しい」「利用価値がない」などの理由から、市区町村が買い取りを拒否しているのだ。

   つまり、生産緑地の指定は解除されると、その農地の引き取り手がなくなるのだ。

   もう、おわかりだろう。1992年から登録がスタートした生産緑地指定が、2022年に30年が経過し、大量の指定解除が行われることになる。現在、生産緑地は全国に約1万3000ヘクタールも存在している。その約8割が解除されることになる。

   もちろん、市区町村は買い取りを拒否するので、これらの農地は一斉に、主に宅地として不動産市場に流れ込んでくる可能性があるのだ。

   そうなれば、住宅地の土地価格が下落する可能性は高い。そのうえ、少子高齢化の影響で、現在は空き家や空き地の増加が社会問題となっている。生産緑地が宅地に生まれ変わり、人が居住するようになればいいが、宅地としてのニーズがなければ、単に空き地が増えるだけになってしまうだろう。

   こうした事態に危機感を抱いた国は、生産緑地の指定解除に向けた対策を開始した。国土交通省は2017年6月から、自治体が条例で定めれば、現在の生産緑地の面積要件である500平方メートルを300平方メートルまで引き下げられるようにした。これにより、都市農地が生産緑地としてとどまり、宅地化するのを防ぐ狙いがある。

   国交省の三大都市圏の222自治体調査の結果では、すでに約50の自治体が条例を制定している。

都会の農家は農業だけでは食えない

   農林水産省は2018年4月1日、特定生産緑地制度を施行した。この制度は、生産緑地の指定から30年経過後は、市区町村への買取り申出時期を10年ごとに延長できるようにした。生産緑地指定の延長のようなものだ。さらに、9月1日からは「都市農地の貸借の円滑化に関する法律(都市農地貸借法)が施行された。

   これまでの農地法では農地を貸借すると相続税の納税猶予が打ち切られ、猶予税額と利子税の納税が必要だった。さらに、貸借契約を打ち切る場合には、契約を更新しないことについて、知事の許可がない限り、農地が返還されなかった。

   これが9月1日からの新法では、相続税納税猶予を受けたままで農地を貸すことができるようになり、また貸借契約でも契約期間経過後に農地が返還されるように変更した。

   さらに、これまで生産緑地を借りる場合には、地方公共団体や農地利用集積円滑化団体、農地中間管理機構の仲介が必要だったが、新法では農地所有者から直接借りることができるようにするなど、生産緑地の貸借が安心して行える新たな仕組みを整えた。

   生産緑地の借り手は、農業体験農園、学童農園、福祉農園、観光農園などへの利用や、農業試験や農業研修に利用することもできる。

   実際に、「生産緑地のある場所は土地の価格が高いため、購入して農業を行うことは非常に困難なため、貸借が容易にできるようになったのは評価できる」(農業体験農園の経営者)との声がある。

   しかし、「農地面積も狭いため、農産物だけで生活するのは難しい。そのうえ、生産緑地は1か所にまとまっているわけではなく、離れているために効率的な農業がやりづらい」(都内の農家)という。

   さらに、「都内の農家のほとんどが兼業農家なのは、後継者の問題もあるが、生産物だけでは生活できないから。生産緑地の借り手が法人組織で農業に乗り出しても、生産物だけで経営していくのは難しいのではないか。多くの生産緑地に借り手が付いて、指定が継続されるとは思えない。その多くは、やはり指定が解除され、宅地化されるのではないか」(別の都内農家)との指摘は多い。

   果たして、国は生産緑地の指定解除に歯止めをかける有効打を放つことができるだろうか。

(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
1990年、金融専門紙の副編集長を経て大手通信社に入社。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、日本銀行、金融庁、東京証券取引所を担当。2005年からマクロ経済と企業ニュース担当の編集委員。2007年3月末に退社し、フリーに。金融業界の内部事情から経済事件、企業経営まで幅広く取材。その鋭い分析力には定評がある。秋田県生まれ、59歳。
著書に、「企業買収 ― 会社はこうして乗っ取られる ― 」がある。
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