2019年 6月 16日 (日)

働き方改革では残業は絶対なくならない! 職場に「感染」「遺伝」するメカニズムがコレだ

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   「長時間労働をやめよう」というスローガンのもと、働き方改革が進められているが、日本企業の残業体質はなかなかなくならない。それはなぜか――。

   組織に残業が発生するには「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」と、まるでウイルスに感染して広がるような病理現象があることが研究でわかった。この残業発生メカニズムの理解なくして残業はなくならないと研究者はいう――。

   この研究は、立教大学経営学部の中原淳教授(人材開発、組織開発)と組織・人事コンサルティングのパーソル総合研究所シンクタンク本部主任研究員の小林祐児さんが実施。2018年12月、著書「残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?」(光文社新書)にまとめた。

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メカニズム1:残業は出来る人間に「集中」する

   中原教授と小林祐児さんは、さまざまな職種で働く約1万2000人の男女(上司層約2000人、メンバー層約1万人)の長時間労働の実態を詳しく調べた結果、おもしろいメカニズムを発見した。長時間労働(残業)の習慣は、「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」という4つの過程によって、組織的に「学習」され、世代を超えて「継承」されていくという。まるで、感染症のウイルスのように組織を病理でむしばんでいくわけだ。

   J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に応じた小林さんは、

「『業務量の多さ』とか『個人の仕事の速さ』といった独立した原因に注目している限り、残業のメカニズムそのものを解除することはできません。組織の中に長く浸透し蓄積された効果なので、人が入れ替わっても継承されていきます。残業をなくすには、そのメカニズムを知る必要があります」

   と説明する。

   残業は、特定の優秀な人に「集中」する傾向が強い。小林さんたちは、調査対象者に自分の「能力」を5段階評価で自己申告してもらった。「オフィスソフトスキル」「文章作成・読解力」「指示・説明力」「プレゼン資料作成力」「情報収集力」の5つの仕事力だ。そして、その能力が平均点以上の高い人と、以下の低い人の残業時間を比べると、高い人の方が1.4倍多かった。明らかにスキルの高い人に残業が集中しているわけだ=図表1参照

残業は優秀な人に「集中」する(小林祐児さん提供)
残業は優秀な人に「集中」する(小林祐児さん提供)

   その理由について、小林さんはこう指摘する。

「これには、上司の部下への仕事の振り方が大きく関連します。上司層に仕事の割り振りを尋ねると、『優秀な部下に優先して仕事を割り振る』という回答が6割を越えています。特に成果主義が広まってから、この傾向が高まっています。つまり、短期的な成果を追うためには、優秀な人を中心に割り振るのが効率的ということです。このため、従業員全体を長期的に育成する方法がおろそかになり、従業員視点で見れば、個人が残業を減らすために独力でスキルを上げる努力をしても、職場では、スキルを上げた個人に業務が振られてくる構造になっているということです」

メカニズム2:残業は周囲の人間に「感染」する

   また最近、働き方改革で残業対策がいわれるようになってから、逆に上司層=中間管理職に残業が集中するようになった。「部下に残業を頼みにくくなった」「仕事を自宅に持ち帰ることが増えた」「休日に仕事することが増えた」と回答する上司が増えた。

   特に「ノー残業デー」「残業申告制」「PCシャットダウン」「自動オフィス消灯」など残業施策を行なっている企業で、上司の「サービス残業」のしわ寄せが増えているのは皮肉だ=図表2参照。これが、残業が「集中」する2つ目の要因だ。

残業施策のしわ寄せが上司に「集中」する
残業施策のしわ寄せが上司に「集中」する

   次に、残業が「感染」するとはどういうことか。残業を増やすとみられる53項目の原因をあげ、最も残業を増やしていたものを聞くと、一番多かった回答が「周りの人が働いていると帰りにくい雰囲気」だった。しばしば残業要因として指摘される「過剰品質の追求」や「意思決定に根回しが必要」といった要因よりも、「帰りにくい同調圧力」が最も残業に影響していた。また、この「帰りにくさ」は、若い人ほど高く、20代は50代の1.7~1.9倍も帰りにくさを感じていた

   小林さんは、

「上司の残業時間が長くなればなるほど部下の帰りにくさは増すことになります。働き方改革で中間管理職の残業が増えると、周囲のメンバーに帰りにくい雰囲気を『感染』させてしまう相乗効果の恐れがあるのです」

   と指摘する。

メカニズム3:残業はしすぎると「麻痺」して快感に

残業をし過ぎると「麻痺」して快感になる
残業をし過ぎると「麻痺」して快感になる

   3番目は、残業は「麻痺」させるだが、じつはこれがもっとも意外性のある発見だったという。まず、図表3を見てほしい。残業時間(月間)の割合に応じて、個人の「幸福感」と「会社満足度」を尋ねてグラフ化したものだ。残業時間が増えるにつれて「幸福感」と「満足度」が下がっていくのがわかる。残業は普通、苦痛だから当然だが、不思議なことに60時間以上、つまり相当な過剰労働をしている層で、逆に「幸福感」と「満足度」に上昇カーブが見られたのだ。

   60時間を超えると、苦痛が「麻痺」して快感に変わったように見えるのはなぜか。ちなみに、ここでいう「幸福感」は社会心理学でよく使われる、エド・ディーナー米イリノイ大学教授の「幸福感の尺度」を使用している。「私の人生はとても素晴らしい」など5項目の質問に7段階で答えると、「幸福度」がわかるというテストだ。

   それにしても、月に60時間を越える超・長時間労働をしているグループの中で、「幸福感」だけではなく、「会社満足度」と「ワークエンゲージメント」(仕事への熱意)まで上昇の動きが見られるのはなぜか。長時間残業が健康リスクを顕著に高めることは、脳科学を中心にいくつかの研究で明らかになっている。残業なしの層と比べると、食欲減退・重篤な病気・ストレスを抱えるリスクが1.6倍~2.3倍になるという調査もあるというのに......。

   この不可解な現象は、「仕事中毒」(ワーカーホリック)といった精神病理なのか、それとも駅伝チームが猛練習に耐えるように、仕事好きが一つの目的に邁進する連帯感からきているのか。つまり、マイナスととらえるのか、プラスととらえるか、小林さんに聞くとこう語った。

「精神病理とまでは言えません。また、単純に言えば幸福度が高いことは悪いことではありません。ただ、月に60~80時間の長時間労働を行っているのにも関わらず幸福度が高いということは、自発的に長時間労働を行いながら心身の健康リスクを溜め込んでしまいます。データからは、この幸福感の背景には、会社で現職以上に昇進するチャンスがあると思っている、組織が一致団結して目標に向かう雰囲気があるといった要因があることがわかっています。

こうした見込み、期待は必ず報われるものではありません。昇進が裏切られたり、目標が達成できなかったりしたときに、一気に心身のバランスを崩してしまう恐れがあります。企業側が『本人にやる気があるならいいじゃないか』といった態度で放置するのは、本人にも社会責任の面でも避けるべきです」

メカニズム4:残業は上司から部下に「遺伝」する

   4つ目は、残業は上司から部下へと「遺伝」するというメカニズムだ。自分の残業の状況と、若い頃どんなタイプの上司に仕えたかなどを聞いて比較すると、最も部下の残業を増やしているのは「若いころ、残業をたくさんしていた」という上司の過去経験だった。現在の上司層が新卒時には、終電帰り、タクシー帰りが当たり前の世代だ。こうした経験が「武勇伝」として部下に語られると、その部下が上司になった時に、部下に多くの残業をさせる上司になるという悪循環が繰り返される。

   また、行動レベルで見ても、新卒時に残業文化に染まった上司は「時間をかけて仕事をする部下を評価する」「自分の仕事が終わっても職場に残る」「これまでの慣習ややり方に固執する」といった傾向が強かった。

   小林さんは、

「さらに興味深いのは、転職経験のある上司に絞って分析すると、こうした傾向が新卒時の組織だけでなく、転職した先の組織でも消えずに残っていたことです。日本企業の残業体質は、上司-部下間という『世代』だけではなく、『組織』をもまたいで受け継がれているのです」

   と指摘する。

残業対策は「外科手術」と「漢方」の両輪で

図4 残業発生メカニズムの職種別違い
図4 残業発生メカニズムの職種別違い
図5 残業の「集中」「感染」「遺伝」「麻痺」がしやすい職種
図5 残業の「集中」「感染」「遺伝」「麻痺」がしやすい職種

   相当に根深い残業文化だが、職種別にみると傾向が微妙に異なってくる=図表4、5参照。ホワイトカラーは優秀さに基づく仕事の振り分けが行なわれる「集中」が多くみられる。システムエンジニアやプログラマーのようなIT系技術職や幼稚園教諭・保育士には、帰りにくい雰囲気の「感染」が、また、ブルーカラーは60時間以上の残業による「麻痺」が多い。そして、残業の武勇伝を自慢する上司による「遺伝」は、企画・クリエイティブ系の職種に多いといった具合だ。

   このように職種によっても残業が起こるメカニズムに濃淡が見られるため、対策は難しい。いったいどうすれば残業文化をなくすことができるのか。小林さんはこうアドバイスする。

「企業が行っている残業制限やオフィス消灯といった施策だけでは、組織に根付いてしまっている『働き方』を変えることにはなりません。むしろ、現場状況を省みない施策では、間に合わない分の仕事がサービス残業化したり、職場での経営・人事への心理的距離感を生んだりしています。長時間労働を変えるには、そうした強制力の強い施策に加えて、組織風土やマネジメントといったソフトな部分を変革する施策も両輪で進めるべきです。

前者を『外科手術』的な対策とするならば、後者は『漢方』的な対策です。漢方は時間がかかりますが、『手術』だけでなんとかしようとするのは誤りだ、ということです」

(福田和郎)

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