外国人労働者、「雇用したい」55.3% 最低賃金割る企業の存在も

   2019年は、外国人労働者の受け入れが進むかもしれない。企業の人手不足の解消に資するとされる、改正出入国管理法が2018年12月8日、国会で成立した。そんな「期待」があってなのか、外国人労働者を「雇用したい」という企業は55.3%と半数を超えた。東京商工リサーチが「外国人雇用に関するアンケート」を、12月25日に発表した。

   ただ、この調査では外国人労働者の賃金が、現行の最低賃金を下回る水準で雇用されているケースが実際に存在するなどの問題を抱えていることもあぶり出した。

  • 政府は外国人労働者の受け入れを拡大したけれど……
    政府は外国人労働者の受け入れを拡大したけれど……
  • 政府は外国人労働者の受け入れを拡大したけれど……

外国人労働者、「雇用している」製造業は4割超え

   調査によると、有効回答の1万353社のうち、「人手不足である」と回答した企業は7227社(構成比69.8%)と、約7割に達した。業種別でみると、建設業の83.8%、運輸業の81.1%が人手不足と答え、突出した。地域別では、北陸が8割(80.8%)を超えた。

   ただ、その中で外国人労働者を「雇用している」と回答した企業は全体で3134社(30.3%)どまり=別図参照。人手不足が深刻な建設業で「雇用している」と答えた企業も、19.8%にとどまっている。建設業は労働環境に加え、過重労働の問題なども背景にあるとみられる。また、「雇用している」の最多は、製造業の1232社(42.1%)と、4割を超えた。

外国人労働者を雇用している企業は、まだ3割ほど。
外国人労働者を雇用している企業は、まだ3割ほど。

   一方、外国人労働者を「雇用していない」は、6027社(58.2%)で6割弱を占めた。「雇用を検討している」と答えた企業は1192社(11.5%)だった。

   規模別でみると、大企業の57.3%が、また中小企業の58.3%が「雇用していない」と答えたが、ほとんど差はない。「雇用している」も、ともに30%台で差がなかった。

   外国人労働者を雇用している企業(3134社のうち、2887社が回答)に、雇用している外国人の職務について聞いたところ、最多は「生産工程・労務作業者(製造業)」で、1015社(35.1%)と3分の1を占めた。次いで、「専門的・技術的職業」が543社(18.8%)、「販売」が197社(6.8%)となっている。

   雇用している外国人労働者の国籍(延べ社数4721社が回答)は、最多は「中国」で1274社(26.9%)。次いで、「ベトナム」の1047社(22.1%)、「その他アジア」が652社(13.8%)と、アジア圏が全体の86.9%を占めた。次いで、南米の4.5%、欧州・ロシアが4.4%だった。

月給「20万円以下」が4割超

   低賃金が問題視されている外国人労働者の賃金だが、その水準をみると、「月給」と回答した企業2360社のうち、「15万円~20万円未満」が595社(構成比で25.2%)と最多。次いで、「20万円~25万円未満」が566社(23.9%)、「30万円以上」が535社で(22.6%)だった。

   また、「時給」(アルバイトを含む)と回答した企業527社のうち、「850円~1000円未満」が218社で全体の41.3%を占め、最多。「1000円~1500円未満」 が142社(26.9%)、「700円~850円未満」が130社(24.6%)となっている。

   時給は、8社(所在地:東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、大阪府、兵庫県、愛媛県、沖縄県)で、厚生労働省が定める「2018年度 地域別最低賃金改定状況」より低い回答がみられた。

   18年12月に成立した改正出入国管理法では、外国人労働者の賃金を日本人と同等以上にするとされるが、実態としては最低賃金すら守られていない企業があることがわかった。

   さらに調査では、これまで外国人雇用者からクレームや不満を受けたこと、見聞きしたことがあるか、聞いた(複数回答、クレームや不満を受けたことがある435社が回答)。最多は「(日本人労働者との比較)賃金の低さ」で107社(構成比で24.5%)。規模別でみると、「賃金の低さ」は大企業が21社(28.7%)、中小企業では86社(23.7%)と、5ポイントの差がみられた。

   次いで、「日本文化の強要、自国文化への無理解」が78社(17.9%)、「(日本人労働者との比較) 年金や健康保険など社会保障の差」が45社(10.3%)となった。「郷に入れば郷に従え」は、グローバルスタンダードでは意図しないパワハラの温床になりかねないようだ。

   国会質疑は、外国人労働者の低賃金のほか、過酷な労働条件が取り上げられたが、「その他」では「残業をもっとしたい」との声が32社でみられた。ただ、外国人労働者が「お金を稼ぎ」に来日していることを考えると、「残業しなければ、稼げない」「日本では暮らせない」のは「低賃金」の反動なのかもしれない。

「雇用したくない」ワケは「受入体制が整っていない」から

   企業に外国人労働者の在留資格の拡大について聞いたところ、拡大「賛成」が7410社で全体の76.3%を占めた。「反対」は2307社(23.7%)だった。

   外国人労働者の雇用状況別でみると、「雇用を検討している」企業で、「賛成」が1051社(91.2%)で最多。すでに外国人を「雇用している企業」でも「賛成」が2451社(87.6%)となった。

   一方、「反対」の理由について、「治安が悪化すると思われるため」と答えた企業が1345社(構成比58.7%)で最多だった。次いで、「行政のサポート体制が不十分」が1105社(48.2%)、「移民受け入れにつながるため」が975社(42.6%)と続く。

   さらに、企業に「在留資格が拡大した場合、外国人労働者を雇用したいか」聞いたところ、「雇用したい」と回答した企業は5335社(構成比で55.3%)だった=別図参照

外国人労働者を「雇用したい」企業は55.3%
外国人労働者を「雇用したい」企業は55.3%

   業種別でみると、「雇用したい」は金融・保険業、不動産業が約4割にとどまり、他の業種に比べて低かった。拡充される単純労働者の雇用需要は、現状はまだ企業に浸透していないことがうかがえるほか、人手の充足別でみると「雇用したい」企業は、人手不足で4173社(62.0%)と6割を超えた。

   また現在の雇用状況別でみると、「雇用している」企業では「雇用したい」が8割超と前向きな姿勢がみられた。

   その一方で、「雇用したくない」と答えた企業も、4307社(44.7%)あった。その企業から「雇用したくない」理由を聞くと、トップは「社内の受入体制が整っていない」で、2499社(構成比で58.4%)で最多。次いで、「任せられる職務がない・少ない」が2043社(47.8%)、「文化の違い」が1763社(41.2%)だった。住宅の確保や行政の支援なども浮かび上がっている。

   実際に外国人労働者を「雇用している」と回答した企業でも、「日本人と同等以上の賃金保障が難しい」との回答が1割を超えた。

   外国人労働者の雇用で懸念することでは、「日本語能力」や「手続き(在留資格・社会保障など)の煩雑さ」も上位を占めた。企業側では、日本語はもちろん、日本の生活習慣や常識、モラルなど、日常生活に向けての研修に時間を費やしている企業もみられた。

   外国人労働者の受け入れには、業務内容とは別に、こうした日常生活のサポートや互いの文化を尊重するサポートも必要になってくる。

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